古代インドの哲学や神話は、多くの宗教に影響を与えてきた存在です。
現在のインドの主要宗教であるヒンドゥー教や、インドで生まれたことで有名な仏教などもそれらに含まれます。
今回は、そんな古代インドの価値観によって形成された宗教の一つである、バラモン教をご紹介していきます。
ヒンドゥー教の原点とも言えるのが、このバラモン教です。
このバラモン教と、インドに今なお存在しているカースト制度との関係も、解説していきます。
バラモン教という宗教の特徴
バラモン教の神話はヒンドゥー教の神話と異なる
バラモン教とヒンドゥー教の異なる点はいくつかありますが、重要視している神々が異なります。
ヒンドゥー教では三人の最高神である、創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌ、破壊神シヴァを崇拝の頂点としているのです。
しかし、バラモン教においての最高の崇拝対象は、宇宙の原理そのものである「ブラフマン」となります。
人格神を崇拝するヒンドゥー教に対して、バラモン教はより抽象的な存在である「宇宙の真理」になっているのです。
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バラモン教の崇拝する神々
バラモン教が最大の敬意を払っている神々は、雷の神インドラ、水の神ヴァルナ、炎の神アグニとなります。
ヒンドゥー教の人格神よりも、自然界を象徴している古い神々を崇拝しているのです。
バラモン教においても、ヒンドゥー教の最高神たちは存在しているのですが、バラモン教では脇役の神々となっています。
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バラモン教は古い時代のヒンドゥー教?
ヒンドゥー教そのものが、バラモン教に民間信仰や、多くの神話などを継ぎ足していった形で発生した宗教になります。
両者は、ほぼ同じような宗教になりますが、現在では圧倒的にヒンドゥー教の信者の人口が多いのです。
古いヒンドゥー教はバラモン教と言えますし、新しいバラモン教がヒンドゥー教と呼べるような関係性になります。
しかし、ヒンドゥー教とは重視する神が違うことと、聖典として使っている神話群ヴェーダの選別が異なることも特徴です。
バラモン教でもヴェーダは聖典
ヒンドゥー教と同じように古代インド神話を編纂したヴェーダを聖典として採用していますが、重要視するヴェーダが異なり、ヒンドゥー教における有力聖典である『ラーマーヤナ』や『マハーバーラタ』などは重要視していないのです。
似たような宗教ですが、若干ながらの方針の違いが両者には存在しています。
バラモン教で重視するのは「四大ヴェーダ」という古いヴェーダです。
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バラモン教で重視する四大ヴェーダ
呪文集である『サンヒター』、祭儀書つまり儀式の手順や方式や意味を記したガイドラインである『ブラーフマナ』、森林で語られる秘技を伝えた『アーラニヤカ』、宗教哲学文献『ウパニシャッド』の四つが、バラモン教の重要ヴェーダになります。
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バラモンという言葉が意味するのは司祭
バラモン教におけるカースト制度
バラモン教においては、厳格な階級制度が採用されています。
いわゆるインドの「カースト制度」の起源になるわけです。
古代インドにおけるカースト制度の成立
紀元前13世紀頃に、インドに対して、イラン方面からアーリア人が侵入したと考えられています。
このアーリア人がインドの先住民族であるドラヴィダ人を支配する過程で、バラモン教が成立していったと考えられているのです。
アーリア人とドラヴィダ人の混血が進み、両者の神話・宗教なども混ざり合うことでバラモン教は完成していきます。
しかし、アーリア人とドラヴィダ人の同居においては、異民族であるアーリア人がドラヴィダ人から土着の病原菌を感染してしまうことがあり、土着の病原菌に免疫のないアーリア人の死亡が相次いだとされているのです。
そのため、アーリア人とドラヴィダ人の婚姻を避けるようになり、人種を分けるようになったとされています。
その人種隔離や選別が、バラモン教と融合することで、カースト制度という身分階級制度の誕生につながったと考えられているのです。
バラモン階級という意味
バラモンという言葉が指しているのは、「ブラフマン」という存在です。
ブラフマンとは、宇宙の真理そのものであり、バラモンとは儀式を通じて神々と関わることが許された特別な存在という意味になります。
ブラフマンに近しい存在という意味で、「ブラーフマナ/バラモン」という階級が誕生したのです。
神々と関わることが許された身分ということで、「司祭階級」とも日本語訳されています。
バラモン階級の主な仕事は、神々を呼ぶ儀式などを司ることです。
バラモン教とカースト制度
バラモン教によってカースト制度は作られた
アーリア人の入植により生じた人種隔離と、バラモン教の教義が結びつき、カースト制度は誕生します。
司祭階級バラモンを頂点として、王族・戦士階級クシャトリヤ、庶民階級ヴァイシャ、奴隷階級シュードラの四つです。
バラモンが最も偉大であり、奴隷階級が最悪ですが、それにも属していない不可触賎民パンチャマというものもあります。
バラモン教におけるカースト制度の厳しさ
インド哲学には「輪廻転生」と、「カルマ/業」いう考えが不偏的に存在しています。
誰もが前世を持っており、前世で善い行いをつめば現世で良いカーストの子として生まれてくるという考えです。
つまり、悪いカーストで生まれた者は、前世で悪行を働いた者という認識となるため、生まれによる差別を定着させています。
またバラモン教においては、最低の階級であるシュードラに生まれた者は、生まれ変わってもシュードラという認識があるのです。
とても差別的な側面であり、見せしめを作ることで上位階級のための秩序や正当性を維持する制度となっています。
法律で1950年代にカーストによる差別は禁止されていますが、今なおインドではカーストによる差別が一般的です。
3500年前から伝わる神話群にもとづく差別は、なかなか解消されにくいものになります。
バラモン教におけるカースト制度の扱い
バラモン教において、というか、インドのカースト制度においては、カースト間を移動しての結婚はタブー視されています。
カーストの異なる者同士の婚姻は、殺害を含む脅迫や暴力を受けることが珍しくはないのです。
バラモン教の教義
バラモン教の世界観は輪廻転生
生きることは苦しみであるというインド哲学を継承するバラモン教では、輪廻転生のことを、六つの世界を巡りながら生まれ変わりを続ける行いだとしています。
地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人間道、天上道の六つの世界を生まれ変わる(六道輪廻)のです。
死後も一切が無くなるのではなく、生前の善行や悪行の量刑によって、生まれ変わる世界が異なることになるだけになります。
通常、六道輪廻からは逃れられることが出来ないため、バラモン教はこの無限につづく苦しみを伴う生から解放された境地である「解脱」を目指す宗教です。
バラモン教の教義は物質と精神の二元論
バラモン教においては、宇宙は物質と精神の二元論で構成されています。
肉体という物質と、精神あるいは魂という存在です。
それらのうちで、精神や魂は不滅であると考えています。
バラモン教の中心思想は梵我一如
「梵我一如(ぼんがいちにょ)」という考え方が、バラモン教の思想の中核を担っています。
宇宙の真理であるブラフマン(梵)と、自我あるいは魂であるアートマン(我)は、同一無差別であるという考え方です。
汎神論的な考え方であり、つまり神さまはどこにでもいるため、だからこそバラモンの儀式で召喚することが可能であり、また特別に寺院を置く必要もない、ということになります。
バラモン教が、マントラという魔方陣を描き、各種の儀式で自然を司る神々を呼び、信仰を捧げたり、供物を捧げたりすることで加護を得るという行いも、「梵我一如」という根本理論があるからこそ理論が証明されるのです。
まとめ
- バラモン教はヒンドゥー教と似ていて、古いヒンドゥー教と言える
- バラモン教ではヒンドゥー教と重視する神が異なる
- バラモンはブラフマンという宇宙の真理と近しい存在の意味
- バラモン教はカースト制度を作った
- バラモン教における重要なヴェーダは四大ヴェーダ
- バラモン教は梵我一如、輪廻転生、業などの考えにもとづいている
- バラモン教は汎神論的であり神々を呼ぶ儀式などがある
多神教であり最高神を持つヒンドゥー教と比べて、バラモン教は儀式により重視する神が異なっています。
あらゆる神の本質もまた、本来は一つの存在であるため、最高の神というのではなく、役割に応じた神々と儀式を行うべきだ、という考え方です。
ヒンドゥー教は神さまへの帰依、つまり神さまを信じていれば神さまが助けてくれるという考えがあります。
しかし、バラモン教では、良いカルマを目指して努力する必要があるようです。
より厳格な部分を感じる宗教ですが、どこにでも神がいるというアニミズム的な発想は、日本人の八百万の神々という概念からすると、近しいものを感じられます。
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