インド神話やヒンドゥー教において人気のある神に、「ハヌマーン」がいます。
猿の姿をした神さまであり、その知名度は高い存在です。
小説やゲームなどのファンタジー作品にも登場することも多いハヌマーンは、世界的にも有名な神さまの一人なのです。
今回は、そんな猿の神さまハヌマーンの人気の秘密をご紹介しています。
どんな物語を背負った神さまなのか、そして、最も有名な猿のキャラクターである西遊記の孫悟空との関係も探っていきます。
目次
ハヌマーンの誕生
ハヌマーンと風の神ヴァーユ
猿の神ハヌマーンの父親は、風の神ヴァーユです。
ヴァーユは神々の英雄である雷の神インドラと並ぶほどの高位な神です。
あるとき、ハヌマーンは太陽を果物だと思い、空へと出かけますが、自分に近づいて来るハヌマーンに太陽神スーリヤは驚き、英雄インドラに助けを求めます。
インドラによりハヌマーンはアゴを砕かれてしまい、そのまま地上へと落下して死亡してしまいます。
その行いに激怒した父親のヴァーユは、風を吹かせることを止めて、世界に多くの死が蔓延することになったのです。
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シヴァ神がハヌマーンを復活させる
最高神の一人であるシヴァは、地上の生命が次々と死んでいく状況を解決するために、ハヌマーンを復活させることを選びます。
復活が決まったハヌマーンでしたが、ヴァーユはインドラに償いを求めます。
その償いとは、ハヌマーンにインドラにとって最強の武器であるヴァジュラでも傷つけられない「強さ」を与えるという方法です。
インドラはその願いを聞き入れて、ハヌマーンにヴァジュラでも傷をつけられない体を与えます。
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ハヌマーンには他の神々からも力が与えられている
復活したハヌマーンには、他の神々からも力を与えられています。
火の神であるアグニからは、火がハヌマーンを傷つけることがないようにという力を与えられたのです。
水と川と海の神であるヴァルナからは、水がハヌマーンに不幸をもたらさぬようにという守護を与えます。
風の神であり父親であるヴァーユからは、風のように速く動け、風からの害を受けることのない能力を与えたのです。
さらには、最高神の一人ヴィシュヌからはガダという武器が与えられ、最高神の最後の一人ブラフマーからは、どこまでも遠くへと移動する能力も授けられます。
三人の最高神と、雷、火、水、風の神々から力を与えられたことで、ハヌマーンは無敵の英雄として蘇ることになったのです。
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ハヌマーンとラーマーヤナ
『ラーマーヤナ』とは何か
古代インドの英雄叙事詩である『ラーマーヤナ』にも、ハヌマーンは登場します。
『ラーマーヤナ』は24000の詩と500の章から成る、全七巻の大長編叙事詩です。
古代インドの英雄であり、ヴィシュヌ神の化身でもある「ラーマ王子」の物語を記した物語です。
ラーマ王子の生い立ちと冒険の日々、妻であるシーターを巡って起きる魔王ラーヴァナとの戦いが描かれた物語になります。
神々から多くの力を与えられたハヌマーンは、ラーマ王子の仲間として魔王との戦いで活躍することになるのです。
ハヌマーンとラーマ王子
ハヌマーンは猿の王スグリーヴァに仕えていましたが、スグリーヴァ王は、弟のヴァーリンに王国を乗っ取られて、追放されてしまいます。
ハヌマーンはラーマ王子に援軍を求めて、ラーマ王子はその求めに応えてヴァーリンを討伐します。
そのおかげで、スグリーヴァは再び猿の王になることが出来たのです。
願いを叶えてもらったハヌマーンは、今度は自分がラーマ王子に力を貸すことを決めます。
ラーマ王子には悩みがありました。魔王ラーヴァナに、妻であるシーターを誘拐されていたのです。
ラーマ王子から受けた恩に応えるため、ハヌマーンと猿の王スグリーヴァはシーターの捜索と奪還に力を貸すことになります。
ハヌマーンがランカーでシーターを発見する
猿の軍勢は世界の四方に出かけて、シーターの捜索を開始します。
一方、神々から多くの能力を与えられていたハヌマーンは、熊の姿を持つ神ジャンババンから、海を飛び越えながら探せばいい、ハヌマーンにはそれが出来るのだ、というアドバイスを受けます。
ハヌマーンはそのアドバイスを受けることで力を使いこなし、山のような姿へと化けると、海の向こう側にあったランカーへと飛んだのです。
そこでラーヴァナの居城を発見したハヌマーンは、今度は、アリのように小さな姿となり居城に探りを入れます。
そこでシーターを発見し、シーターを救助しようとしますが、シーターからはその役目は夫であるラーマ王子の使命だと告げられ、救出を断られてしまうのです。
その後、魔王ラーヴァナに捕らえられるハヌマーンでしたが、その超人的な能力を使い、拷問と束縛から抜け出して、誘拐された妻の所在をラーマ王子に告げることになります。
ちなみにランカーとは、今のスリランカのことです。
インドの南の海上に位置する、セイロン島がランカーであり、スリランカという国名は、その古代名からつけられています。
ランカーでのラーヴァナとの決戦
ラーマ王子は軍勢を率いて、ラーヴァナとその軍勢と戦うことになります。
その戦いにおいても、ハヌマーンは猿王の軍勢の将軍としても有能さを発揮し、また時には単独でその強大な力を使うことにより、ラーマ王子を手助けするのです。
やがて、ヴィシュヌ神としての力を使い、魔王との戦いに勝利したラーマ王子は、シーターを救出して王になります。
王となったラーマ王子は、ハヌマーンのこれまでの貢献を讃え、手にした財宝の多くをハヌマーンに授けようとしましたが、ハヌマーンはそれを断ります。
ラーマ王子の恩を思い出すために、贈り物は必要ないと語ったのです。
それを疑うラーマ王子の部下に対して、忠誠を証明するためにハヌマーンは自らその胸を破り、心臓にラーマ王子とシーターへの想いがあることを示します。
ラーマ王子への忠誠を証明したハヌマーンは、その傷を癒やされて、永遠の命あれと祝福されることになったのです。
ハヌマーンと西遊記の孫悟空との関係
ハヌマーンは孫悟空の創作に大きな影響を与えている
ハヌマーンは孫悟空のモデルとなったと言われています。
両者には多くの共通点が存在しているのです。
- 見た目が猿である。
- 神々のような力を持っている。
- 主に仕えて冒険の旅をする。
- 魔王や悪い神々、妖怪などを倒している。
インド発祥のハヌマーンが、東アジアへと伝わっていった結果、孫悟空というキャラクターの創造に対して、大きな影響を与えているのです。
ハヌマーンと孫悟空に共通した能力
- 小さくなれる。
- 山のように大きくもなれる。
- 力が強く、武術と戦いが得意である。
- 空を飛び、長大な距離を瞬時に移動することが出来る。
- 姿を何にでも変える力がある。
- 強力な武器を持っている。
このように物語の描写の上でも、ハヌマーンと西遊記の孫悟空のあいだには、大きな共通点が無数にあります。
そして、宗教の守護者であるという立場も、両者の共通点になります。
ラーマーヤナにおけるハヌマーンの活躍
上記したものの他にも、ハヌマーンの活躍はラーマーヤナでは多く描かれています。
- ヒマラヤ山脈を引っこ抜く。
- 縛られたあげく燃やされるが、燃えない。
- インド南端からヒマラヤまで瞬時に移動する。
- 山を飛び越えるほど高くジャンプすることが出来る。
- 魔女スーサラの口の中から体内に入り、頭を内側から攻撃する。
- ラーマ王子の弟のために、薬草畑を地面ごとえぐりとって運んでくる。
西遊記の孫悟空にも勝るとも劣らない、豪快かつ破天荒なエピソードを持っているのがハヌマーンなのです。
ラーマーヤナで描かれている以外にも、ハヌマーンには多くの伝説があり、剛力な英雄に尻尾を持ち上げさせようとしたが、全く持ち上がらなかったというエピソードもあります。
ハヌマーンは、本当に多くの人々に愛されて、さまざまな物語を与えられた猿の神なのです。
まとめ
- ハヌマーンは風の神ヴァーユの子供
- 神々から多くの力を授けられて復活した
- ラーマーヤナにおいて英雄的な活躍をする
- ラーマ王子の盟友である
- 西遊記の孫悟空のモデルともなった
ハヌマーンは今でも人気のある神です。
ヨガを始め、武術や芸道の守護者としても崇められています。
多くの人々の心を掴む、魅力的な存在なのです。
力と義侠心と忠誠心を併せ持った猿の神は、今でもラーマ王子やシーターと共に並ぶようにして、像が作られています。
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