ヒンドゥー教において最高神の一人であるのが、維持神ヴィシュヌです。
日本人の耳には聞き慣れない神さまになりますが、じつは、このヴィシュヌは映画『アバター』の語源にもなっています。
今回は、そんなヴィシュヌについて、ご紹介していきます。
ヴィシュヌの役目である維持神とは、どういう役割を持った存在なのかについても解説していきます。
維持神ヴィシュヌが持つ多くの名前
ヴィシュヌはヒンドゥー教の最高神
ヒンドゥー教には最高神と呼べる神々が三人います。
創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌ、破壊神シヴァ、この三人の神々がヒンドゥー教の最高神たちであり、同等の力を持っているともされているのです。
【関連記事】
創造神の役目とは、世界を創ることであり、破壊神の役目は世界を終わらせることになります。
維持神の役目は、世界を存続させ続けるのが役割なのです。
つまり、世界を危機に陥れるような悪や、大きな問題が誕生すれば、「化身/アヴァターラ」を使わして悪を倒すことで世界を救い、維持することに努めています。
じつにヒロイックな神であり、この「化身/アヴァターラ」が映画アバターの語源ともなったのです。
オンラインゲームなどで、自分が操るキャラクターをアバターと言いますが、それもヴィシュヌのアヴァターラが語源になります。
ヴィシュヌは最強の神でもある
ヒンドゥー教において、世界に終焉をもたらす存在はシヴァなのですが、ヴィシュヌはそんな破壊神であるシヴァよりも強いとされています。
ヴィシュヌはアヴァターラを送り出すだけでなく、自身もまた強い神なのです。
シヴァはヴィシュヌと戦ったとしても勝つことが出来ない定めであるため、ヴィシュヌは規格外の力を持ったヒンドゥー教の神々のなかでも最強の神とされています。
一説には、ブラフマーはヴィシュヌのヘソから生まれ、ヴィシュヌの額からはシヴァが生まれたともされているのです。
宗派によれば、最高神たちの中でも、一番の神なのだという扱いになっています。
ヴィシュヌの妻はラクシュミ(吉祥天)
ヴィシュヌの妻は美しい女神ラクシュミであり、この女神は仏教では吉祥天とされ、日本に伝わっています。
繁栄と幸運と富を司る財宝の女神であり、ヴィシュヌがアヴァターラとして転生する度、ラクシュミもまた転生し、英雄に対するヒロインという立場で、彼と関係を持つことになるのです。
【関連記事】
ヴィシュヌのインドでの人気は今も昔もとても高い
ヴィシュヌの持つアヴァターラという力の性格は、困窮や破滅に向かう世界や人々を救うヒーローたちを生み出す、ということです。
そのため、ヴィシュヌのアヴァターラたちの物語の多くは、心躍るような英雄譚であり、古代からインドの人々を魅了し続けています。
では、そんなヴィシュヌのアヴァターラたちは、どういうエピソードを持っているのか、ご紹介していきます。
ヴィシュヌの10人のアヴァターラ(アバター)たち
ヒンドゥー教の創世物語で活躍したヴィシュヌのアヴァターラ(アバター)たち
- ヒンドゥー教の天地創造の際に、ヴィシュヌは大亀「クールマ」に化けて大地を支えます。
- 人間の始祖であるマヌを大洪水から救うため、大魚「マツヤ」としてマヌの乗る船を守ったのです。
- 世界を支配した魔族の王バリを、小人「ヴァーマナ」に化けてだまし討ちするようにして倒します。
- マヌの願いに応じて、大洪水に沈んだ大地を、巨大なイノシシ「ヴァラーハ」が引き上げたのです。
- ブラフマーから、人にも獣にも神にも殺されない力を与えられた魔王を、人でも獣でも神でもない人獅子「ヌリシンハ」として退治します。
『ラーマーヤナ』で有名なラーマ王子もヴィシュヌのアヴァターラ(アバター)
『ラーマーヤナ』の物語を短く語れば、魔王に恋人であるシーター姫をさらわれた「ラーマ王子」が、仲間たちと共に大冒険と大戦争を繰り広げて、魔王を打倒し恋人である姫を取り戻すという、王道の英雄物語です。
壮大な世界観を持った物語なので、とても人気があります。
シーター姫は、女神ラクシュミの転生した人物なのです。
【関連記事】
悪事を働く武人階級を殲滅して世の中を救ったパラシュラーマ
シヴァから武術を習った「パラシュラーマ」も、ヴィシュヌのアヴァターラの一人です。
パラシュラーマは師であるシヴァと21日間も競り合うように戦い、シヴァの額に傷を負わせます。
破壊神であるシヴァと互角以上の力を、パラシュラーマは持っていたようです。
そんなパラシュラーマには、悪事を働く武人階級クシャトリヤと戦う運命が待ち受けています。
願いを叶える聖牛を持っていたパラシュラーマですが、あるときクシャトリヤの王が家にやって来て、聖牛の力でもてなされます。
王は聖牛を気に入り、力づくで奪っていってしまったのです。
それに激怒したパラシュラーマは王とその軍勢と戦い、その全てを殺してしまいます。
父親は虐殺を行ったパラシュラーマに、聖地への巡礼で罪を清めるのだと命じられ、パラシュラーマは巡礼の旅に出かけます。
パラシュラーマの不在時に、王を殺されたクシャトリヤは、報復としてパラシュラーマの父親を殺害してしまい、そのことを知ったパラシュラーマはクシャトリヤたちを滅ぼしてしまったのです。
そうして、悪事を働くクシャトリヤは滅び、カーストの最上位であるバラモンの支配が確立し、世の中は平和になったとされています。
最大の人気を誇るクリシュナもヴィシュヌのアヴァターラ
ヒンドゥー教で最大の人気を誇る神、「クリシュナ」もヴィシュヌのアヴァターラです。
『マハーバーラタ』において、ヴィシュヌは悪王を倒すためにクリシュナとして転生します。
その転生の先は、なんと悪王の妹の息子だったのです。
予言によりそれを知った悪王は妹を幽閉しますが、妹はクリシュナとその兄パララーマを逃し、二人は牧童として育ちます。
成長したクリシュナは無双の怪力を誇り、武勇に秀でていました。
クリシュナの生存に気づいた悪王は企みにかけ、クリシュナを殺そうとしましたが、逆に殺されてしまいます。
クリシュナはドラマチックな生まれと、そして恋愛物語、さらに武勇に優れた英雄でもあるため、インドでは最大の人気を誇るヒンドゥー教の神なのです。
【関連記事】
仏教の開祖である仏陀もヴィシュヌのアヴァターラ
ヒンドゥー教では、「仏陀(釈迦、釈尊)」もヴィシュヌのアヴァターラ(化身)となります。
ヒンドゥー教における仏陀の行動は、偽りの宗教(仏教)を広めることで、ヒンドゥー教の聖典であるヴェーダから、悪人を遠ざけたとのだと考えられているのです。
かなり特殊なアヴァターラと言えるかもしれませんが、ヒンドゥー教の世界観では仏陀はヴィシュヌの化身でもあります。
ヴィシュヌのアヴァターラの物語には、神話だけでなく、実在の人物たちも題材となっていることがあるとされており、仏陀はその典型的な例になるのです。
10番目のアヴァターラは世界の終わりまで現れない
ヴィシュヌにとって最後のアヴァターラとなるのは、「カルキ」です。
世界の終焉に現れる神であり、混沌を破壊した後に、新たな世界を再生させると言われています。
まだ誕生していないアヴァターラなので、その役割以外にエピソードはなく、駿馬に乗った英雄の姿をしている、あるいは、頭が馬であるという外見的特徴のみが伝わっているのです。
ヴィシュヌはさまざまな神話と英雄物語を合一した存在
ヴィシュヌは本当に多くの側面を持つ
長い歴史を持つインド神話は、現在のヒンドゥー教になるまでに、多くの異教との接触や、新しい宗派の創造、さらには実在の英雄たちの偉業や、国家間の紛争や身分対立を経験して、多くの価値観を吸収していきます。
その経緯から、ヴィシュヌを始め、このヒンドゥー教という多神教の神々は、多くの側面を持つ存在へと組み上がっていったようです。
長い歴史と膨大な物語、そして、多くのアヴァターラを持つヴィシュヌを、一言で説明するのは困難なことになります。
ヴィシュヌという名前には「あまねく満たす」、「どこにでも入る者」という意味もあるとされるので、じつにその呼び名に相応しい神のように感じられるのです。
ヴィシュヌの神話とその支持がヒンドゥー教を支えて維持している
ヴィシュヌの神話は、輪廻や身分制度を肯定し、インドにおけるヒンドゥー教の社会観を形成している力となってもいます。
たんに大昔の神話というだけでなく、巨大宗教ヒンドゥー教の主な神として、現代インドの文化や価値観に大きな影響を、今なお与え続けているのです。
まとめ
- ヴィシュヌはヒンドゥー教の最高神の一人
- ヴィシュヌの役割は世界を悪から守り維持すること
- ヴィシュヌはヒンドゥー教の神々で最強の存在
- ヴィシュヌは化身アヴァターラを作る力があり、それが映画やゲームのアバターの語源
- ヴィシュヌには10人のアヴァターラがいる
- ラーマ王子やクリシュナなどの、インドで大人気の神々もアヴァターラである
- 仏陀もアヴァターラとされている
- 最後のアヴァターラ、カルキはまだ現れていない
多くの神々がいるヒンドゥー教を理解することは、なかなかに難しいことです。
しかし、まずは最高神であるヴィシュヌがインドの人々に愛されているかを知ることが、その理解への一歩になります。
破壊神に勝つ無双の乱暴者から、魔王や悪王を倒す英雄たち、そもそも世界を支えて維持してくれる偉大な神です。
ヴィシュヌは多大な魅力を持ち、ヒンドゥー教の世界を守り、現実的にも宗教の力で社会制度を維持してくれている神なのです。
コメントを残す