スーフィズムとは?特徴やダンス、歴史など解説

宗教にはさまざまな宗派があり、ときにそれは宗派という分類からもより離れた異教に近づくことがあります。

イスラム社会には神秘主義・スーフィズムという思想と体系が存在しているのです。

イスラム教に明確なルーツを持ちながら、イスラム教そのものとは言いにくい派閥になります。

イスラム文化における特殊な行動の実践者がスーフィズムのメンバーです。

今回はスーフィズムとはどういう特徴をもつ宗教行動なのかをご紹介します。

スーフィズムとは何か

スーフィズムの目指すもの

イスラム教は最も法整備が行き届いた宗教になります。

戒律の多さや習慣を定義する伝統の存在、そして各地の宗教学者たちにより与えられるバリエーションの多さは日常生活の全てにルールを与えるものです。

イスラム教は世界にある宗教の全ての中でも、法律に最も近い宗教になります。

しかしこのルールが多くシステマティックな宗教であることに、スーフィズムは反対して誕生することになったのです。

一般的なイスラム教のことをルールを重視するあまりに、「神さまへの感情」を忘れているのではないか?という不満をスーフィズムは持っています。

スーフィズムが目指すものは知識やルールの構築ではなく、「神さまに対して精神的に近づこう」というものです。

「神秘主義」とも呼ばれる理由はここにあります。

スーフィズムの語源

なおスーフィズムの語源である「スーフィー」とは、羊毛(スーフ)で編まれたボロ布の衣服のことです。

イスラム教の預言者であるムハンマドの周囲にいた、スーフィー(スーフィズムの実践者)たちの服装から取られています。

これには貧しい衣装を身に着けることで虚飾をなくした、いわゆる「清貧」のような意味も込められているのです。

またスーフィーの語源には異説もあります。

信仰の清浄さを意味する言葉や、ムハンマドの高弟たちが座っていたソファー、あるいはギリシャ語の知恵=ソフォスが由来ではないかともされているのです。

語源のあたりからフワフワしていますが、その理由はスーフィズムが理性的な知識を求めている集団ではなく、明確な定義を目指してもいないところにも原因があります。

あくまでも神さまに感覚的に近づく、一体化することを望むのみなのです。

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スーフィズムの特徴

スーフィズムが求めているのはイスラム教の神さまを感じることです。

そのため神さま以外への信仰を排しているイスラム教とやや異なり、聖人の崇拝が行われています。

イスラム教を創設した預言者ムハンマドを「神さまに近づいた最高のスーフィズムの体現者」として考えているのです。

スーフィズムは一般的なイスラム教の戒律を守るだけでなく、ダンスや瞑想、ときには魔術や詩作や歌などの芸術活動などを用いることで「神さまとの一体感」を目指します。

イスラム教の文化から派生した、神秘的な行いを好む集団なのです。

スーフィズムの目的
  • 一種の儀式を行い続けることで神さまと一体化すること
  • 最高のスーフィーであるムハンマドの感覚を再現すること
  • 自分の内面を理想に近づけていこうとすること

修行を通じて、特別な精神状態や能力の獲得を目指すという、ある意味ではストイックな宗教活動の実践者たちなのです。

知識や法律のような具体的なルールを作り、それを守っていれば良いわけではなく、あくまでも感覚的・精神的に神さまの意志に近づくことを重視した考えになります。

スーフィズムはイスラム文化における「神秘主義」であり、イスラム教の一種とも言えますが、主流のイスラム教徒からは異端視されがちな考えの一つなのです。

なお外部から見て神秘主義の集団と評価されていますが、歴史を通じて彼ら自身は神秘主義であることを標榜してはいません。

本気で神秘的な行動の実践し、神さまを感じることを目指す人々なのです。

スーフィズムのタリーカ(教団)とダンス

メヴレヴィー教団による回旋舞踊(出典:wikipedia)

スーフィズムは多数の教団があり、それぞれに独自のルールや風習を伝承しています。

厳密なルールの構築や、知識の獲得ということに対しては興味は少ないものです。

あくまでもスーフィズム的な行動を実践することで、イスラム教的な信仰を行っていきます。

旋回するダンス(セマー)を踊り続けることで有名な教団は、トルコの観光政策もありスーフィズムの代名詞的な存在です。

このダンスは手足の配置に神さまや自分の精神、それがどういう法則で近づいていくのかを表現しているのか等、動きやポーズに神秘的な意味が込められています。

このダンスは儀式であり修行方法であり、そして自分たちの思想を表現する芸術活動であり、さらにはかつては勧誘方法でもあったのです。

イスラム文化やイスラム教の布教に有効だった

感覚重視のスーフィズムはイスラム文化において文学や芸術活動の担い手でもあったのです。

また神秘主義的な要素やダンスなどは、インドを含めアジアへのイスラム教の布教にも有効に機能していきます。

ただし、それらの布教活動の過程で、現地の宗教観や儀式などを取り入れていったため、より神秘主義的な側面が強まってもいったのです。

インドでは魔術などの要素や、イスラム教にもあった瞑想などの修行法が強化されていったとも考えられています。

またギリシャなどの哲学もトルコ経由で伝わったとも考えられているのです。

スーフィズムはイスラム文化に根ざすものですが、ユーラシア大陸各地の文化や思想、哲学とも融合しているため、より異教の雰囲気、神秘主義的な傾向が強まっていきます。

スーフィズムはイスラム教なのか?

イスラム教の世界観を完全に継承していますが、一般的なイスラム教の目指す理性的なルールの構築という部分を含め神学的な方向性では明らかに異なっている部分も多くあります。

そのため、歴史的にはイスラム教の神学や指導者とスーフィズムのあいだには、ある程度の距離が取られていることが多いのです。

芸術的であり祭りや文化の担い手であり、感覚的なイスラム文化の布教活動も行ってくれる、イスラム教にとってもメリットは多かった集団になります。

しかし、どこか異教や不思議かつ神秘的な傾向が強すぎるため、理性的な人々や正統なイスラム教からすると異端な要素があったのです。

スーフィズムの歴史

スーフィズムの成り立ち

スーフィズムによると最初期のスーフィーは、預言者ムハンマドとその周辺にいた高弟たちになります。

預言者ムハンマドこそが最高のスーフィー(神秘主義の実践者であり神さまへ精神的な意味で最も近づいた人物)とも考えられているため、ムハンマドの生き方を模倣することを目指したのです。

スーフィズムの初期では、修行者スーフィーたちは神秘主義を体現した一種の聖者(あるいは隠者)であり、彼らは尊敬を集めて信者が集まっていき教団が形成されていきます。

熱心な修行者・神秘主義の体現者であった人々が、スーフィズムを創始したのです。

こういった経緯からスーフィズムの誕生時期をイスラム教が生まれた7世紀とする説もあります。

しかし、一般的に普及を始めて社会的な認知が深まるのは9世紀ごろからです。

画一的でシステマティックに進化したイスラム教に対して、より感覚的な信仰を目指そうとした宗教改革の方法の一つとして、スーフィズムはある程度の力を持ちます。

さまざまな教団が生まれていく

イスラム世界の広まりに呼応して、各地にローカライズされたスーフィズム教団が生まれていきます。

それぞれの地域でのイスラム教やイスラム文化の布教に有効に機能することもあったと考えられているのです。

コーランと法解釈の厳密さを重視する元来のイスラム教よりは、ローカライズされたスーフィズムの方が受け入れやすさを持っていたとも考えられています。

イスラム教最大の神学者ガザーリー

ガザーリー(出典:wikipedia)

11世紀になるとガザーリーと呼ばれる神学者が登場します。

ガザーリーはイスラム教における最大宗派であるスンナ派を盛り上げた人物です。

優れた神学者であり哲学者でもあったガザーリーは、イスラム教を研究していった結果としてスンナ派のライバルであったシーア派への批判を展開していきます。

シーア派の思想的な弱点を突いていくことで、スンナ派を推奨する勢力の拡大に貢献したのです。

またガザーリーはイスラム教を研究した結果、「理性的な信仰では限界があり、理性を超えた無我の世界にこそ真に神さまに近づいた信仰があるのではないか」と主張します。

自分を忘却することで、世界の造物主であり支配者である神さまを感じられる、一体化できる、神さまを感じられるのではないかと考えたわけです。

ガザーリーは最終的にはスーフィズムに傾倒し、スーフィーの修行者として生きることを望みました。

やがてスンナ派はガザーリーのロジックとスーフィズムを受け入れることで、各地に勢力を伸ばしていき、イスラム教における最大勢力となったとも考えられています。

もちろん皆がスーフィズムに染まったわけではなく、芸術的・魔術的・神秘的な考えが非科学的で神秘が支配する中世の世界では「布教活動に有効だった」のです。

現在のトルコでの迫害

スーフィズムは異端的な要素も多く含み、基本的には少数派です。

スンナ派の世界観をもちながらもスンナ派そのものとも言い難い思想ではあります。

そのためスーフィズムは迫害されることも少なくありません。

トルコではスーフィズムを観光用の芸術活動として行うことは奨励され認められてはいますが、真の意味での宗教活動としてのスーフィズムは禁じられています。

またスーフィズムはコーランへの原点回帰を目指すイスラム原理主義からも、リベラルで近代的なイスラム教勢力のどちらからも否定されることが多いのが現状です。

原理主義者から理論がないところが否定され、現代的な人々からは神秘主義なところが嫌がられています。

スーフィズムの政治・軍事利用

イスラム原理主義が起こすテロリズムとの戦いに対して、欧米、ロシア、中国などはスーフィズムを政治的に利用してもいます。

イスラム原理主義との対立候補としてスーフィズムを応援することで、イスラム原理主義のテロ組織の結束や行動力にダメージを与えようという戦略です。

スーフィズムはテロ組織の理論武装を崩すための道具としても利用されようとしています。

理論の原理主義に、感覚の神秘主義・芸術活動をぶつけて中和しようというわけです。

スーフィズムは勢力も強くはないため、政治的・軍事的に利用しても最終的な脅威となるリスクが少ないからですが、イスラム諸国からの反応はさまざまあります。

まとめ

  • スーフィズムは神秘主義で行動主義
  • スーフィズムは理性を超えて感覚で神さまに近づこうとする
  • スーフィズムはスンナ派の宣伝に役立った
  • スーフィズムのダンスには儀式的な要素も多い
  • スーフィズムは理論ではなく感覚を重視
  • 有名なスーフィーはガザーリー
  • スーフィズムは迫害されがち
  • スーフィズムはテロ組織の理論武装を弱めるためにも利用されている?

スーフィズムはかつてはスンナ派に利用され、現代はテロとの戦争にも利用されてもいます。

宗教は政治的な影響力を多く持っているため、敵対勢力を間接的・直接的に攻撃することが可能であり、利用すればメリットが多いものです。

スーフィズムは芸術活動としても処理することが可能であるため、勢力のコントロールにも向きます。

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