ハーレムという言葉を聞いてイメージするものは官能的なものの場合もあります。
日本においては「複数の女性をはべらせた状況」を意味して使われることも多く、男性にとっては一種の憧れのシチュエーションにもなるものです。
しかしハーレムという言葉そのものはどこから伝わって来ているのか、そして本当のハーレムがどういったものかはそれほど有名ではないものです。
今回はハーレムという言葉の語源をご紹介していきます。
目次
ハーレムの意味と由来
ハーレムという言葉が日本で使われる場合
日本では1人の男性が複数の女性をはべらせている状態をハーレムとして使っています。
それ以外にハーレムを規定するためのルールはとくに存在することもなく、ハーレムは空想の恋愛やただれた性的な状況、あるいは生物界におけるオスが複数のメスを支配している群れなどを示すことで使われています。
日本においてハーレムは恋愛や性的なイメージしかない言葉になるわけです。
ハーレムの語源と本来の意味
ハーレムという概念は欧米の文化を経由して日本に伝わったものになりますが、もともとはイスラム世界の言葉と文化に由来しています。
ハーレムはトルコ語では「ハレム」、アラビア語においては「ハリーム」と呼ばれているのです。
それらの意味するところは「聖地/ハラーム」になります。
「みだりに立ち入ってはならない場所/禁じられた場所」というものであり、ハーレムとは男性が立ち入るのを禁じられた空間という意味なのです。
イスラム教の規範に則れば、女性と男性は「ある程度の距離」を保つべき関係とされています。
不用意な男女間の接触は性的な風紀の乱れにつながると考えられているわけです。
そのために女性が占有する空間「ハーレム」を作り出すことによって、「男女間の接触を断ち切る」という考えが生まれたわけです。
つまり真の意味でのハーレムは、日本人の文化に描かれる性的で官能的なものであるというより、むしろその逆の性質を持つ理念とも言えるものになります。
ハーレムに官能的な描写が与えられた由来
男女間の接触を断ち切るためのシステムがハーレムの真の理念になりますが、どうして官能的な描写がされるようになったのかにも理由が存在しています。
イスラム世界の代表的なハーレムとしてヨーロッパに伝わったのが、オスマン帝国の後宮だったからです。
一夫多妻制である中世のイスラム世界においては、権力者や富豪などは多くの妻を娶っていましたが、その妻たちに「夫と親族以外の男が入れない部屋/ハーレム」を与えています。
財力や権力に比例して多くの妻を娶ることが出来たため、どちらから見てもイスラム世界でトップクラスであることが間違いないオスマン帝国の皇帝たちのハーレムは巨大なものだったのです。
日本の大奥などと同じように皇帝の側室や愛人候補たちの女性が大量にいた場所が後宮であり、皇帝のハーレムになります。
一般的にはハーレムに捧げられる女性は美女が多かったため、皇帝という「1人の男のために大勢の美女がいる場所」という認識がヨーロッパに伝わることになるわけです。
ヨーロッパはキリスト教の社会であるためイスラム教の文化への理解を積極的には行わず、また中世から近代まで闘争を繰り返して来た間柄でもあります。
一種の悪意的な情報の取捨選択もあった可能性もありますが、性的な雰囲気や官能的な描写を協調して伝えたほうが。世間一般には面白がられたという事実も大きいものです。
キリスト教的な価値観や文化に反していたとしても、ヨーロッパ人には「愛欲にまみれたハーレム」という官能的な描写は印象深く心に残っていきます。
女性を軽んじているような扱いだともされキリスト教社会からは一種の嫌悪の対象となりつつも、それが官能的で魅力的な価値観を持っていたことには変わりはないものです。
ヨーロッパ世界で作られたハーレムのイメージは、そのまま日本へと伝えられるようになりハーレムは宗教的な性倫理にもとづくシステムとしてではなく、ただの官能的なものとして多くの日本人が認識するに至ったわけです。
- オスマン帝国の皇帝のハーレム:あくまでもイスラム教の性倫理に則った後宮
- それを聞いたヨーロッパのキリスト教社会:不道徳で淫靡な異教のならわし
- ヨーロッパから伝わり日本人が持ったイメージ:性的かつ官能的な男にとっての楽園
- 日本が世界に輸出しているハーレム漫画やアニメがそこそこの外貨を稼ぐ
文化圏を伝わるにつれてイスラム教の規律という部分が削げ落ちていき、結果的にハーレムがもつ官能的なイメージとそれにもとづく商品が開発されることになっていきます。
官能的な商品や作品が繰り返して作られる度に、イスラム社会のハーレムが持っていた意味からは遠ざかる官能的なイメージが増強されることになったわけです。
イスラム社会においてのハーレム
皇帝の後宮としてのハーレムは官能的なイメージを人々が抱くには十分なものでしたが、本来のハーレムは男女の接触を断つためのものになります。
原理的なイスラム教の社会においては女性は肌の露出を控えたり、既婚者は夫以外に顔を見せてはいけないなど男女間の接触を断とうという各種の風習があります。
しかし各家庭のハーレム=「一般的に男子禁制の女性たちだけの部屋」の中では、女性と女性の友人しかその場所にはいないため、好きな格好をしてもいいという自由な空間にもなるわけです。
そういった部屋は女性のプライベートな私室になるため、夫である男性もあまり入らないようにするのがルールであります。
イスラム社会が女性にとって居心地の良い環境であるかは置いておいて、ハーレムは女性たちにとっては女たちだけで自由を満喫することが出来る空間でもあるわけです。
ハーレムと語源を同じくするハラム食品
イスラム教にはいくつかの戒律が存在していますが、その戒律で有名なのは「豚肉を食べてはならない」などになります。
豚肉に限らずイスラム教の戒律では「食べていい食材」というものがあり、これらは「ハラル」と呼ばれるものです。
ハラルの語源は「許可された/してもしなくてもいい」というものになり、ハラル食品はイスラム教徒が食べてもよい食品のことになります。
イスラム教において「食べてもよいとされている食品」を、「イスラム教の戒律に則った手法によって処理された食品」がハラル食品になり、原則としてイスラム教徒はそれらの食品のみを食べて生活しています。
食べてもよい食品があるということは、それら以外の食品は「食べてはならないもの」になるわけです。
それが「ハラム」になります。
ハーレムの語源である「ハラム」には「聖域/禁じられた場所」という意味があり、それは「してはならないもの」ということにもなるわけです。
ハラル食品に対する存在が「ハラム食品/食べてはいけないもの」になり、イスラム教社会などでは食品に「ハラル」か「ハラム」のシールを貼ることで、イスラム教徒として食べられるものかどうかを判断する仕組みが取られています。
日本でもイスラム国家からの旅行者に対して、豚肉を使った料理や豚骨スープのラーメンなどが提供される「危険性」が指摘されることもあり、ハラルかハラムかを表示して欲しい、あるいはすべきではないか?という動きもあるのです。
なおイスラム社会においてはハラルかハラムかの規定には、各国において差が存在しており絶対的な共通認識ではないものになります。
かつては豚由来のエキスを使った食品も「タブー/ハラム」でしたが、今ではバイオテクノロジーの進歩により豚の遺伝子を細菌に挿入することで、細菌から作り出した「疑似的な豚エキス」などが日本を含み世界中で用いられているのです。
豚からではなく細菌から取り出したものになるため、これは現状ではハラルとして許可されている国や地域もありますが、議論の展開次第では否定される可能性もあります。
ちなみにインドでは牛を神聖視してその食材をタブーにしていますが、乳製品の加工にはバイオテクノロジーの発達以前は牛の胃袋から取れる酵素を使っていたため、インドではそういった食品を売買することが出来なかったのです。
しかし上述の豚エキスと同じように牛の胃袋から分泌される酵素の遺伝子を導入した細菌のおかげで、牛を殺さずに同じ成分を得られるようになります。
そうすると乳製品の製造や販売が促進されるようになっていったわけです。
食材についての宗教的なタブーは科学技術の進歩によっては克服することも可能になる場合があります。
ハーレムと同じ名前を持つもの
- ハーレム(haarlem):オランダの都市であるハールレムの異表記。たんに名前が似ているだけで根っからのキリスト教圏にある都市。
- ハーレム(harlem):アメリカのニューヨークの街の名前。オランダ移民によって上記のハールレムにちなんでつけられている。
- ハラム食品:イスラム教徒が食べてはならない食品のこと。
- ハーレム:イスラム教における一般的に男子禁制の区画のこと。
- ハーレム:トルコ帝国の後宮であり、美女の側室や奴隷が1000人ぐらいいた場所のこと。
- ハーレム作品:おもに複数の女性を独占する男性のストーリーをもつ作品のこと。
- 動物のハーレム:動物のオスが複数のメスをまとめあげて形成した群れのこと。
- 官能的なハーレム商品:ハーレムの性的・官能的なイメージをピックアップして利用した娯楽商品のこと。
ハーレムのようにイスラム教・アラビア語由来の単語
以下、その他イスラム教・アラビア語が由来の単語をご紹介します。
- アルカリ:イスラム教社会は錬金術を研究していたため化学技術の言葉が多い。
- アルコール:アラビア語由来。
- メッカ:イスラム教の聖地が由来、「ものごとの中心地」として使用。
- アルケミー:化学・錬金術などの意味、「アル・キーミヤーゥ」から。
- キャンディー:アラビア語で砂糖菓子の意味「カンド」から。
- シュガー:アラビア語でスッカル(砂糖)から。
- 襦袢(じゅばん):アラビア語の「ジュッバ」が語源であり、ポルトガル語経由で日本に伝わる。
まとめ
- ハーレムの語源はイスラム教にある
- ハーレムは誤解されがち
- ハーレムはトルコ皇帝の後宮のイメージが強い
- ハーレムと同じ語源をもつ「ハラム食品」がある
- ハーレムと似た名前をもつオランダの街がある
- イスラム教やアラビア語が世界に与えた影響は大きい
イスラム教の世界観は日本人にとっては縁遠さもあるものです。
ハーレムや豚肉禁止などの戒律も正確な理解をすることは難しくもあります。
しかしイスラム社会や文化をより知ることで世界の歴史や文化、価値観といったものを学ぶ機会にもなるのです。
イスラム社会が生み出した天文学や航海術、そして化学の発展や代数などの発明は世界を科学的・経済的な面でも大きく進歩させています。
ハーレム以外にもイスラム教の文化には興味深いものが多く存在しているのです。
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