旧約聖書には多くの重要な人物が登場します。
天地創造から人類の始祖であるアダムとイブなど、世界の始まりを描いたエピソードも多く記載されているのです。
モーゼも旧約聖書における重要な人物の一人であり、「十戒」で有名になります。
しかし、モーゼと十戒の名前を聞いたことがあっても、具体的にどういったものなのかを問われると、答えに困ってしまうこともあるものです。
今回は、そんなモーゼと十戒についてご紹介していきます。
また、モーゼの名前を冠する現代のプロジェクト、モーゼ・プロジェクトも解説いたします。
モーゼの旧約聖書におけるエピソード
モーゼは旧約聖書の登場人物
聖書は二つ存在しています。
旧約聖書と新約聖書であり、これらの違いはキリスト誕生の後が新約聖書となり、キリスト誕生前のユダヤ教徒の聖典が旧約聖書です。
ちなみに同じ神を崇拝しているイスラム教徒からしても、旧約聖書と新約聖書は宗教的な価値がある書物ですが、コーランという独自の聖典を最重要視しています。
旧約聖書は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教において、共通している聖典なのです。
モーゼが登場するのは、キリスト誕生以前の聖書、旧約聖書になります。
モーゼは古代エジプトで生まれた
旧約聖書では、モーゼは古代エジプトで生まれたと描かれています。
モーゼが生まれた時代(紀元前16世紀~紀元前13世紀頃)では、ユダヤ人は古代エジプトにおいて支配され、虐げられている民族だったのです。
当時エジプトでは人口が増加していくユダヤ人が危険視されており、子供を出産することもタブーとされています。
モーゼが生まれたときには、エジプト王(ファラオ)が「新しく生まれたユダヤ人の男児は全て殺害する」という命令まで出していたのです。
ユダヤ人夫婦のあいだに生まれたモーゼは、王の命令から逃れるため、親の手によりパピルスで編んだ船に乗せられて、ナイル川へと流されたのです。
川を流れっていったモーゼですが、結果としてエジプト王の娘に拾われて、その子供として大切に育てられることになります。
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モーゼが神から啓示を受けて預言者となる
成長したモーゼは、ユダヤ人の奴隷たちがエジプト人に虐げられる姿を見て、奴隷たちを救うために行動し、結果としてエジプト人を殺害してしまいます。
この事件が発覚して、エジプト王に追われる立場となったモーゼは、アラビア半島にまで逃亡することになったのです。
その土地でモーゼは羊飼いの女性と結婚し、家族を作ると、羊飼いとして暮らすことになります。
しかし、神はモーゼに使命を与えたのです。
荒野で遭遇した「燃える柴」の中から、モーゼは神の声を聞きます。
神はモーゼに、「エジプトにいるユダヤ人を約束の地カナンへと導け」という命令を与えたのです。
この瞬間が、「預言者モーゼ」の誕生になります。
ちなみに「預言者」とは、神から言葉を「預けられた者」という意味です。
「預言」は神からの命令を聞いたという意味であり、「予言」は未来などを予想したという意味になり、意味が違います。
宗教では神から言葉や命令を与えられている人物を、「預言者」とするのが一般的です。
預言者モーゼは神の命令に従いエジプトに帰還
神の命令を受けたモーゼは、エジプトに戻り、エジプトの王にユダヤ人の解放を要求します。
しかしエジプト王はモーゼの要求を拒んだため、モーゼは神から与えられていた権限を用いて、「十の災い」をエジプトに起こしたのです。
以下が十の災いになります
- ナイル川が血の赤い色に変わる
- カエルが大量に発生する
- ぶよが大量に発生する
- 虻が大量に発生する
- 疫病が家畜に蔓延する
- 腫れ物が起きる病気が蔓延する
- 雹が降る
- イナゴ(大量のバッタ)が発生する※穀物を食べて飢饉を呼びます
- エジプトが暗闇に覆われる
- エジプトで生まれた長子は全て死ぬ
これらの結果、エジプト王の長男まで死亡したため、エジプト王はユダヤ人の解放をモーゼと約束したのです。
モーゼはユダヤ人を連れて約束の地を目指す
モーゼはエジプトからユダヤ人を連れて旅立ちましたが、エジプト王は心変わりを起こして、ユダヤ人を抹殺しようと軍隊にモーゼたちを追いかけさせたのです。
モーゼたちは海岸に追い詰められてしまいます。
前は海で、後からは軍隊が迫るという窮地に立たされたとき、モーゼは手に持っていた杖を天に掲げたのです。
そうすると海が大きく割れて、逃げ道が生まれます。
モーゼたちユダヤ人は、その道を走って逃げましたが、それを追いかけて来たエジプト軍は割れた海が元通りになってしまい、海に飲み込まれて全滅したのです。
モーゼはそれからも長い旅を続けますが、その旅は過酷なものになります。
モーゼがシナイ山で神から「十戒」を与えられる
シナイ山までたどり着くと、モーゼはシナイ山に登り、ユダヤ人を代表して神と契約を交わして、十戒を受け取ることになります。
十戒とは石版に刻まれた「神から与えられた10種類の戒律」のことです。
十戒の種類は以下の通りになります。
- 私の他に神があってはならない
- 神の名をみだりに唱えてはならない
- 主の日を心にとどめ、これを大切に守れ
※天地創造の神話にならい、休息日を作って、
それを実行しろという意味です。 - あなたの父母を敬え
- 殺してはならない
- 姦淫してはならない
- 盗んではならない
- 隣人に関しての偽証してはならない
- 隣人の妻を欲してはならない
- 隣人の財産を欲してはならない
十戒とはこうなり、4.以降は一般的な社会生活における倫理的な規範となります。
意外と特別な戒律はないものですが、宗教的な特徴では、神の数を一つと主張してあり、「一神教」なのだということを規定しているのは特徴です。
また、モーゼがシナイ山から戻ると、ユダヤ人の中には金色の牛を祀る異教が流行っていたため、モーゼは激怒し、神からもらった十戒を一度、自分の手で叩き割っています。
モーゼたちの旅はあまりにも過酷で、よく仲間たちが不平不満を言ったり、異教に走ったりするのも特徴なのです。
十戒の1.「私の他に神があってはならない」、という戒律には他の神を崇拝するな、偶像崇拝禁止というメッセージも込められています。
偶像は、神のニセモノという見方も出来るからであり、偶像を拝むのではなく、本当の神そのものを信仰しなさい、という意味です。
さて、最初の石板を叩き割った後、モーゼが自分で石版を用意して、神に再び十戒を刻んでもらったため、十戒の石版は二つ存在します。
これらのモーゼがエジプトからユダヤ人を脱出させてから十戒を得る一連のエピソードは、「出エジプト」と名付けられているのです。
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モーゼの最期と遺言
十戒を入れた箱を担いで、モーゼたちは旅を続けましたが、モーゼは約束の地カナンに着く直前で死亡してしまいます。
モーゼは120才、荒野を40年間も旅した果てのことです。
モーゼは同胞たちに遺言と祝福を残します。
「あなたの神を愛し、御声を聴き、神につき従いなさい。それが、まさしくあなたの命である」
「神に愛される者はその傍らに安んじて住み、終日、神に身を寄せて、その御守りのもとに住まう」
そのモーゼに神も言葉を与えます。
「あなたは間もなく先祖と共に眠る」
当時は悪人は死ねば滅びるとされていたため、神はモーゼの生き方を「正しかった」と認めたわけです。
こうしてモーゼは120年の寿命を全うし、モアブの谷に葬られ、その場所は誰も知らないとされています。
モーゼが約束の地に辿りつけられなかったのは、水に困ったときに岩を叩いて水を出す奇跡を起こした際、神がまた水不足になったら岩を叩けと伝えられていたのに、それを破ってまたすぐに岩を叩いたからだとされます。
キリスト教などの契約宗教における神との契約の厳格さも、モーゼの人生は示しているのです。
モーゼは敬虔な神の信者の模範として、その人生を捧げきった偉大な預言者なのです。
モーゼの死後の流れ
モーゼの後継者ヨシュア
モーゼ死後は、軍事的な才覚のあったヨシュアが指導者となります。
ヨシュアは約束の地カナンの攻略に乗り出し、いくつかの町を制圧していき、最終的にカナンの全てを掌握するのです。
その後、十二の氏族にカナンの地を分配することになります。
なおモーゼの所属していた「レビ族」は司祭業務の専属として土地は与えられず、十二の氏族には入らず、後々、司祭を多く排出し神殿の運営などを占有していくのです。
ヨシュア死後の指導者たちの時代:士師時代
ヨシュア死後は士師時代と呼ばれる宗教的には混乱した時代を迎えます。
さまざまな氏族から指導者が誕生し、先住していた異民族との混血や、異教の神々に対する信仰の鞍替えなども発生するようになったのです。
司祭の専門職としてのレビ族には、土地が与えられておらず、明確な権力と発言力がなかったことになります。
士師時代の混乱は、預言者サムエルと、サムエルに見出だされ祝福を受けた古代の英雄「ダビデ王」の誕生まで続くことになるのです。
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モーゼの十戒の行方
失われたアーク
モーゼの十戒を入れて保管していた箱も有名です。
それを聖櫃(せいひつ)と呼び、アークや契約の箱とも呼ばれています。
アークは戦争の最中には浮かび上がり、敵に飛びかかった、敵に奪われると敵に疫病が流行るなどと様々な奇跡を発揮したのです。
しかし、紀元前587年に新バビロニアによって、アークを安置されていたエルサレム神殿が破壊され、アークとその中身であるモーゼの十戒は行方不明になります。
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アークを探し求めた人々
中世の十字軍もアークを探しましたが、見つかっていないのです。
都市伝説レベルでは十字軍において活躍したテンプル騎士団が密かに回収している、という説もありますが、はっきりとした証拠はないのです。
またはナチスのヒトラーも探していたという話もあり、それを題材にしてインディージョーンズなどの有名な冒険映画も誕生します。
アークは今もって行方不明ですが、ソロモン王の血筋につながるとも言われる、エチオピア王が所有し、エチオピアに今も安置されている、というエチオピアの伝承もあるのです。
イタリアにおけるモーゼ・プロジェクト
イタリアにあるモーゼの名前を持つ計画
イタリアの有名な水上都市ヴェネチアは、浸水問題に対面しています。
泥の地盤にレンガ造りの重たい家屋を建てているため、地盤沈下は宿命的なものなのです。
古来は沈んだ家屋を地盤の基礎にして、その上に新しく町を建ててきたわけですが、世界遺産となった今では、簡単に壊すことも増築することも出来ないのです。
また、温暖化による水位上昇も伴い、ヴェネチアを洪水から守る必要性が高まります。
そして作られたのが、モーゼ・プロジェクトです。
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モーゼ・プロジェクトの内容
MOSE(Modulo Sperimentale Elettromeccanico)の頭文字をとったもので、「電気機械実験モジュール」の意味)は、一言でいえば可動式の防波堤です。
干潟にあるヴェネチアに潮流が流れ込まないように、満潮時には稼働して、水の流れを塞き止めます。
こうすることでヴェネチアを致命的な水害から守る、という計画になるのです。
水を塞き止めるというコンセプトそのものは、18世紀にはあり、長らくヴェネチアが水害の発生に悩まされていたことを理解させてくれる事実になります。
しかし、温暖化による水位上昇と高潮の多発から考えると、モーゼ・プロジェクトだけではヴェネチアを守りきれそうにないという試算が出ているのです。
地球の温暖化が、美しい水の都を、ゆっくりと破壊しつつあります。
まとめ
- モーゼは旧約聖書の人物
- モーゼは古代エジプトで生まれた
- モーゼは最も偉大な予言者のひとり
- モーゼは海を割り「出エジプト」を成し遂げる
- モーゼはシナイ山で十戒を授かる
- モーゼの十戒は二枚ある
- 十戒を入れた箱/アークは行方不明
- ヴェネチアの水害対策にモーゼ・プロジェクトというものがある
預言者モーゼは旧約聖書における最大級のヒーローの一人です。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教などに大きな影響を与えています。
そして、失われた十戒とアークというロマンも大きく、個人的にはいつか見つかって欲しいと考えているものの一つです。
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