最も有名な悪魔は?という質問があれば、おそらく第一位に選ばれるのは「サタン」ではないでしょうか。
キリスト教世界において最も強大な悪魔といえば、サタンになります。
日本人にも知名度の高い悪魔サタンですが、実際にそれがどういった悪魔なのかを答えられる方は少ないと思います。
今回は「最強の悪魔」であるサタンについて解説していきます。
目次
サタンとはどんな悪魔なのか?
最強の悪魔サタン
サタンが登場するのは旧約聖書と新約聖書になります。
サタンは旧約聖書においてはアダムとイヴが住む楽園に現れ、食べてはならない知恵の実をイヴに食べるようにそそのかしたヘビとして登場します。
イヴとアダムはその結果、知恵の実を食べてしまい、怒った神は二人を楽園から追放しました。
こうして人類は不死の楽園から離れてしまい、死ぬことや病気や天災などの多くの困難と遭遇するようになってしまいました。
サタンは人類に苦しみを与えた原因ともなった悪魔なのです。
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新約聖書におけるサタン
サタンのキャラクターが確立していったのはキリスト教においてです。
キリスト教の経典である「新約聖書」の最後の項目にあたるヨハネの黙示録では、サタンは「大天使ルシファー」でありながら神に挑んで敗北し、そのまま地獄へと追放されて「堕天使ルシファー」となったと語られています。
キリスト教ではこの堕天使ルシファーがサタンと結びついていき、やがて同じ存在であるとされるようになったのです。
サタン=堕天使ルシファーであり、サタンはそもそも神に仕えていた天使たちの長であったとされていますが、神に逆らい地獄で悪魔たちの支配者となったのです。
サタンの姿
サタンはキリスト教の宗教美術のなかで発展していくようになります。
かつての聖書はラテン語で記されているものばかりで、ラテン語を読み解ける信者はヨーロッパでは少数でした。
そのためローマ・カトリック教会は聖書の場面を現すために宗教絵画や、ステンドグラスなどの芸術作品を布教に利用していたのです。
見ることで信者に聖書の内容を示していていました。
サタンもその中で姿を得るようになっていきます。
旧約聖書の物語であるアダムとイヴを描いた場面ではヘビとなり、新約聖書にまつわる場面を表現した宗教芸術においては角とコウモリのような翼を生やした怪物のように描かれるようになります。
サタンには一定の姿がなくヨハネの黙示録でも、「赤い竜」、「獣」、「古いヘビ」などさまざまな姿を持つとされていますが、中世の終わりの頃には「角が生えて尻尾があり、三つに分かれた武器を持つ」という「悪魔の典型的な姿」として描かれることが増えました。
サタンはそのときどきに姿を変えて、キリスト教徒を誘惑する強大な悪魔なのです。
サタンのヤギの角
サタンを象徴するアイテムの一つとしてヤギの角があります。
これはイエス・キリストの説教に由来しているものとされ、イエス・キリストが自らに忠実な信者を「ヒツジ」として表現した一方で、それ以外の異教徒や悪魔を「ヤギ」に例えたことに由来しています。
異教徒や悪魔のシンボルとして「ヤギの角」をサタンが所持するようになったのです。
サタンのイメージは典型的な悪魔である
サタンは旧約聖書においては神の命令に忠実でもあり、「神の命令で人類に罰を与える天使」とも描かれ、「アダムとイヴをそそのかしたヘビという誘惑者」としても描かれました。
そして新約聖書では神に仕える天使たちの頂点でありながら、その傲慢さゆえに神に挑み敗北した堕天使としての姿とエピソードを得ます。
しかしサタンが悪魔の王であることや、地獄の支配者であることについては聖書に記述されているものではなく、あくまでもキリスト教の伝統において形作られていったイメージなのです。
聖書にサタン=ルシファーは強大な力を持ち、多くの堕天使=悪魔を従える存在として描かれていたため、「悪魔と地獄の王」であるというイメージが形成されていったのです。
サタンは神に背き人類を悪の道へと誘惑してくる強大な堕天使=悪魔たちの王として、現代にも伝わる一般的なイメージが出来上がっていきました。
サタンにまつわるキリスト教以外の伝統
悪魔の12人の王子
サタンにまつわる記述は聖書においては限定的ですが、長い伝統のあいだそのイメージは巨大化していき、悪魔についてもまたある種の体系化が成されていきました。
これはキリスト教などの大手の宗教団体の考え方ではなく、あくまでも外部団体や悪魔崇拝者などの異端的な発想となるものですが、サタンにはその息子とされる12人の王子がいます。
- 1 サタン:サタンそのもの。
- 2 ルキフェル(光の者):ルシファーのことになります。
- 3 レビヤタン(ねじれ曲がった者):旧約聖書の海の怪獣、リヴァイアサン。
- 4 ベリアル(無価値なる者):「悪」を司る。破壊と敵意の堕天使。
※以下8人の下位王子
- 5 アスタロト/ディアボロス(中傷者):過去と未来を見通す。竜の姿も持つ。
- 6 マゴト(醜さ):人間の脳に寄生し心を操る蛆(うじむし)。醜く短躯である。
- 7 アスモデウス(滅ぼす者):色欲を司る。元はゾロアスター教の悪魔。
- 8 ベルゼブブ(ハエの王):ハエの姿を持つ。元は異教の神、嵐と慈雨の豊穣神。
- 9 オリエンス(東の者):東の支配者。死の天使サマエルとも同一視。
- 10 パイモン:北の支配者。ルシファーに忠実な悪魔。悪魔の召喚に長ける。
- 11 アリトン(口にできぬ者):西の支配者。水の魔王。
- 12 アマイモン/マモン(狂暴な者/強欲):南の支配者。狂暴で貪欲な悪魔。
悪魔信仰などによれば、適切な術を使うことでこれらの王子たちを呼び、その力を得ることもできるとされています。
悪魔マモンなどは狂暴な者というイメージから、創作物にも反映されることが多い悪魔です。
またマモンは暴力的な面をもつだけでなく、強欲も特徴であるため、資本主義者は皆マモンの下僕であるという異説まであります。
宗教におけるサタンの扱い
サタンはキリスト教では「神の敵」という立場を強調されていますが、イスラム教でサタンにあたる存在のア・シャイターンは神に「悪意を持っていません」。
天使であったア・シャイターンが悪魔=堕天使とされた理由は、アダムとイヴに仕えることを拒んだからです。
神以外には仕えないという忠誠心をア・シャイターンは持っていたことになり、それはイスラム教の哲学ともマッチするものです。
そのためイスラム教における悪魔は、「神に敵対する存在」ではなく、あくまでも「人類の敵」という形になっています。
サタンと土星のサターン
サタン(Satan)と似ている言葉に土星を表すサターン(Saturn)などがありますが、この両者には関係がありません。
サターンはローマ神話における「農耕神」であり、また「時」も司る神だったのです。
サターンの祭りである「サートゥルナ―リア」は、毎年12月17日から7日間にわたって行われた祭りであり、この期間においては奴隷たちにも特別な自由が許されたとされています。
サターンの祝祭はその時期からも想像がつくように、のちにキリスト教の「クリスマス」へと受け継がれたという説もあります。
ローマ・カトリック教会はローマの文化を多く継承しているのです。
サタンとサタナエル
キリスト教系の異端宗教である「ボゴミル派」においては、「サタナエル」という堕天使が語られています。
ボゴミル派においては、サタナエルはルシファーと同じ存在ともされますが、独自の解釈としてサタナエルはキリストと同じように「神の子」になります。
ボゴミル派では「キリストは大天使ミカエルと同一の存在」です。
キリスト教においてもルシファーとミカエルは兄弟になります。
ボゴミル派の説においては、サタナエル(ルシファーでありサタン)と大天使ミカエルは、どちらも「神の子」なのです。
天地創造のさいにサタナエルは「人間の肉体とこの世界そのものを創造した」とされ、人間の魂については神によって創られたことになっています。
つまり宗教によっては、「サタンは世界の創造者」でもあるわけです。
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キリスト教でサタンが発展した理由
キリスト教、とくにローマ・カトリックにおいて、サタンなどの悪魔の研究は発展していきました。
旧約聖書においては「神」はときに残酷な仕打ちを人類に与える存在として描かれていましたが、新約聖書では人類を保護する側面が強調されています。
そのため世界に悪徳や堕落がある理由を説明するために、サタンなどの悪魔たちが利用されたのです。
キリスト教と新約聖書によって神はより善意あふれた存在に描かれていき、サタンたち悪魔はより神と人類の敵であると記されるようになりました。
キリスト教神学者たちは悪魔のことを、キリスト教の正当性を高める道具としても使っていたのです。
またキリスト教に他宗教の信徒を獲得させるために、他教の神を悪魔=堕天使として貶めたり、あるいは天使として迎え入れるような行いも布教活動に取り入れました。
結果として聖書にはない「悪魔にまつわる伝統」が誕生していくことにつながり、研究された悪魔についての学問は現在にも残り、一定の悪魔崇拝者を生み出しています。
サタンたち悪魔についての研究はオカルト的な要素だけではなく、娯楽作品にも大きな影響を与えて、現在の悪魔は私たちに娯楽としても消費されているのです。
まとめ
- サタンは悪魔の王であり新約聖書においては堕天使ルシファー
- 有名な悪行はヘビに化けてイヴをだまし、人類は楽園から追放されて苦しむことになった
- キリスト教の文化のなかで完成した
- ヤギの角はイエス・キリストの説法に由来する
- サタンは典型的な悪魔であり、その姿は数多くある
- 12人の息子がいるという説がある
- 息子マモンは強欲で暴れ者で資本主義者の支配者かもしれない
- サタン(サタナエル)は世界の創造者であり、その影響は現代社会にも伝わる
サタンなどの悪魔は邪悪な存在として描かれる一方で、どこか娯楽的な魅力にあふれてもいます。
多くの芸術家や作家たちが悪魔を商品化して、産業的な消費として大きな地位を持っています。
日本においてもマンガやアニメ、そしてゲームなどで多くの悪魔が登場して、経済的な効果を生み出しているわけです。
キリスト教文化が生み出した悪魔は、人類をいまだに誘惑し続けています。
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