十二使徒とは?メンバーや「最後の晩餐」について解説

キリスト教にはさまざまな宗教用語が存在します。

キリスト教でしか使われていない専用の言葉も多々あり、今回ご紹介する「十二使徒」もそんな宗教用語の一つになります。

創作物のテーマにも多用されてきた魅力の高い言葉ですが、その正確な意味を考えたり知る機会はクリスチャンが多数派ではない日本では多くはないものです。

十二使徒とはどういう存在なのか、また彼らを描いた最も有名な絵画の一つである「最後の晩餐」を解説してきます。

使徒の意味とは?

使徒に与えられた役割

キリスト教の開祖であるイエス・キリストには多くの弟子が存在しています。

その主要な高弟を「十二使徒」と呼ぶことがありますが、彼らを示す「使徒」という言葉には特別な意味があります。

使徒とはイエス・キリストの弟子でありキリスト教の僧侶であるだけではなく、「キリスト教を広めるために伝道する者たち」という意味があるのです。

イエス・キリストの高弟であり、イエス・キリスト自身からキリスト教伝道の使命を与えられた十二人の僧侶たちが「十二使徒」になります。

使徒は「キリスト教を広める」ための使命を、キリストから直接受けとった人々というわけです。

そのため彼らはどんな困難があったとしても布教活動に従事して、ときにはその命を落とすことになったとしてもキリスト教を世に広めていくことになります。

使徒と弟子の違い

イエス・キリストの弟子は十二人しかいなかったわけではないのですが、どうして使徒が十二人なのかについても理由があります。

キリスト教の母体となったユダヤ教においては、この「十二」という数字は「重要な意味」を持っているものだったからです。

ユダヤ人には「十二部族」という歴史があります。

古代イスラエル王国にいた十二の部族のことを示す数字であり、使徒が十二人なのもその聖なる数字を反映してのことです。

古代イスラエル王国の「十二部族」に代わり、新たな「十二人の幹部」を作り出すことで「宗教的な権威の継承」を主張したことになります。

部族が文化や血族を広めていくように、十二人の使徒たちは神の教えであるキリスト教を世界に広めていくことになるのです。

使徒はイエス・キリストが企画した初期のキリスト教において、位の高い弟子である以上に宗教的な意味を持った存在なのです。

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使徒の定義は宗派によっても少し異なる

使徒はイエス・キリストの弟子たちのなかでも「伝道師」としてキリスト教を世の中に広める役割をもった人々になります。

しかし十二使徒以外の弟子たちが、キリスト教を世の中に広めなかったわけではないのも事実です。

十二使徒は教団の中心的な幹部として君臨していますが、それ以外の弟子たちも使徒と呼ばれることが宗派によってはあります。

キリスト教は大きく二つの勢力に分かれています。

それが「西方教会」「東方教会」です。

西方教会はローマの「カトリック」「プロテスタント」など、日本人からすれば知名度の高い宗派の総称です。

一方、東方教会「ギリシャ正教」「ロシア正教」などのギリシャや中東、東ヨーロッパなどで発達した宗派になります。

ヨーロッパの西と東で宗派が異なって発達していったため、両者にはそれなりの違いが生まれているのです。

西方教会では使徒とは明確に「十二使徒」という意味で使われています。

しかし東方教会においては十二使徒の他にも、イエス・キリストによって選抜された「七十門徒」と呼ばれる70人の弟子であり伝道師である人々のことも、使徒とされる場合があるのです。

西方教会はイエス・キリストに対して、キリスト教徒の信仰を集めようとする方向性が強くある宗派になります。

一方で、東方教会はイエス・キリスト以外の「聖者」や「守護聖人」といった人々も重視するという意味で、信仰対象が複数いるという傾向が強くなっているのです。

十二使徒のメンバー

ではイエス・キリストにより十二使徒に選ばれた人物たちをご紹介していきます。

1 ペテロ(シモン)

初代法王(東方教会的な考え方)。ローマで殉教。十二使徒のリーダー格。イエスの弟子になったときにはすでに妻帯者。元漁師、敵対する人物の耳を剣で切り落としたことがある。聖書において最もイエスに叱られる存在。

2 ヨハネ

元漁師。唯一殉教しなかった使徒。「ヨハネの黙示録」の作者ともされる。黙示録は聖書のなかでも唯一、「預言書」としての性質をもつ書物であり、世界の終わりで起きる悪魔との戦いなどの未来を描いている。作家などの守護聖人。

3 アンデレ

ペテロの兄弟で漁師。X字型の「アンデレの十字架」で磔刑となり殉教。スコットランド国旗やロシア海軍の旗に「アンデレの十字架」は使用されている。ルーマニアとロシアの守護聖人。

4 セベダイの子ヤコブ(大ヤコブ)

ヨハネの兄弟で元漁師。ユダヤ人たちの統治者である悪王「ヘロデ王」に捕らえられて殉教。スペインの守護聖人。ホタテ貝がシンボル。

5 ピリポ

ギリシャ人の名前で呼ばれる人物であり、ユダヤ人としての本名は別にあると考えられる。ギリシャ人とイエスのあいだの仲介者である可能性がある人物。聖書ではあまり多くを語られない。

6 バルトロマイ/ナタナエル

ピリポに紹介されてイエスの弟子となる。「皮を剥がれる」という処刑法で殉教したとされる。ナタナエルが本名でバルトロマイが通り名であるとも考えられている。

7 マタイ

税理士・銀行員の守護聖人。「マタイによる福音書」の作者とされる。イエスが預言者であり救世主であると主張するのが福音書の特徴である。ある意味、反ユダヤ的な書物であり、イエスとキリスト教を肯定するための書物。エチオピアかペルシアで殉教。

8 トマス

インドまで宣教した使徒。「インドの守護聖人」。疑い深く、復活したイエスの脇腹にある傷に指を差し込んでイエスかどうかを確かめた。ヨハネの黙示録によると情熱家で研究熱心なのだが「少しズレている人物」と評価される。

9 アルファイの子ヤコブ(小ヤコブ)

イエスの兄弟説がある人物。カトリックでは従兄弟とされている。聖書では記述がほとんどない。

10 ユダ(ヤコブの子、別名タダイ)

イエスの兄弟説がある人物。敗北者の守護聖人。「忘れられた聖人」。西方教会では裏切り者のイスカリオテのユダと名前が同じことから意図的に軽視されたと考えられている。複数の人物と混同されるような立場であり、ペルシャで殉教したとも伝わる。死体はローマのサン・ピエトロ大聖堂のある場所に埋められたと伝えられる。

11 熱心党のシモン

今もって内容が不明の組織「熱心党」に所属していたという人物。あるいは宗教上のルールに熱心だったから熱心党と呼ばれているという説もある。詳細がほとんど残っていない人物。新約聖書には合計二度だけ名前が出るのみ。

12 イスカリオテのユダ

「裏切り者」の代名詞ともなった人物。イエスを銀貨30枚で敵に売り渡して、その金で土地を買う。やがて裏切りを悔いて自殺したとも、買ったその土地に墜落して死んだともされる。

じつは十二使徒のほとんどが新約聖書のなかでは多くが語られている存在というわけではないのです。

新約聖書は一人の人物が書いたわけではなく、多くの記述者によって完成した文章の総称になります。

そのため固有名詞があやふやな部分もあったり、同一人物のエピソードなのかが分からないものもあったりと、解釈しがたい部分が出てくるわけです。

人気の高い使徒は?

人気の高い使徒
  • ペテロ(シモン):多くの伝説が残っている人物であり、扱いが格別によい。失敗も多いが、いわゆる「反面教師」としてイエスに叱られるスタイルで教義を表現してくれる人物。

    「天国の鍵」を渡されていたり、魔術師を退治、傷を癒やす奇跡を行い、果ては死んだ少女を蘇らせたなどの活躍が伝わる。

  • ヨハネ:「ヨハネの黙示録」が有名である。殉教せずに長寿を全うしたことから「主に愛された弟子」などとも呼ばれる。

  • セベダイの子ヤコブ:ペテロ、ヨハネと共に特別に高い地位を持つとされる使徒。新約聖書として重要なイベントである「イエスの変容/イエスの神聖さや正当性を示す場面」や、「ゲッセマネにおける最後の祈り/イエスが捕らえられる前にした最後の祈り」などに参列している。

  • アンデレ:ペテロの兄弟。上記三人と共に高い地位にある人物とされる。アンデレの処刑のさいに使われたX型の「アンデレ十字」が人気。国旗や軍旗に採用されている。

  • イスカリオテのユダ:「裏切り者」として不名誉な形ではあるものの、クリスチャン以外にも抜群の知名度を誇る。キリスト教が多数派でない日本では最も有名な十二使徒になる。

    2世紀の頃からじつはイエスから真の後継者とされていたのではないか、奥義を伝えられていたのではないか?などの異端な説が出回るようになるほど、ストーリー性をもった魅力がある。

ダヴィンチの「最後の晩餐」

新約聖書における「最後の晩餐」とは?

直接的にはヨハネによる福音書の13章21節の「12人の弟子たちから一人が私を裏切る」という、イエスが予言をしたシーンが題材となっています。

名指しはしないものユダの裏切りにより明日には自分が死ぬことになるとイエスは語るシーンです。

ほかにも「イエスが死んだ後に弟子たちは方々に逃げ去る」、「ペテロはイエスが捕らえられて翌朝に鶏が鳴くまでに三度イエスを知らないと言う」などの予言もしています。

また「パン=イエスの肉」、「ワイン=イエスの血」というキリスト教の儀式で使うものが特定されたシーンでもあります。

つまり、イエスによる「裏切り者がいることの予言」、「教団が離散する予言」、「儀式のためのアイテムの決定」が行われたシーンであり、宗教的に重要なシーンになります。

なお毎回このような豪華な晩餐を開いていたわけではなく、この食事はモーゼ(モーセ)に率いられて奴隷にされていたユダヤ人たちがエジプトから脱出したことを祝うユダヤの伝統的な祭りである「過越の儀式」での夕食です。

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ダヴィンチの「最後の晩餐」

左からバルトロマイ、小ヤコブ、アンデレ、ユダ、ペトロ、ヨハネ、キリスト(中央)、トマス、大ヤコブ、フィリポ、マタイ、タダイ、シモン(出典:wikipedia)

上記の「最後の晩餐」を描いた作品になりますが、ダヴィンチの作品の特徴がいくつか存在しています。

「最後の晩餐」を描くときのセオリーとして、通常は裏切り者のユダのみを遠ざけて描くことが多いのですが、ダヴィンチはこの絵においてはユダを他の使徒たちと同じように、キリストの近くに配置して晩餐に参加させています。

もう一つの大きな特徴は「手」を使って使徒たちの感情を表現していることです。

驚きを表現するために広げられたヤコブの両手や、混乱と苦しみの表情を浮かべ胸に両手を向けるピリポ、語りかけるようにしながらヨハネの肩に置かれたペテロの手、指を組み合わせてどこかイエスの言葉を予測していたかのような思索と悲しみをたたえた顔のヨハネがいます。

疑り深いトマスは指を一本だけ高く上げて「裏切り者は一人なのですか?」という質問をしています。

またユダの手にはイエスを裏切ることで手に入れた、「30枚の銀貨が入った袋」が持たされています。

それぞれの人物たちがもつ「聖書でのキャラクター性」を反映した描写となっているので、キャラクターを想像しながら見ると絵画鑑賞の面白さを得られる作品です。

「最後の晩餐」における各人物の解説
  • ペテロ:年長者の風貌である。左手でインテリそうなヨハネの肩をつかみ、彼に何かを問いかけている。右手には「ナイフ」を逆手で持っている。ユダの背中にナイフが位置する。短気さと荒くれた感もある。ペテロは敵対する者の耳を切り落としたことがある人物。

  • ヨハネ:年若く女性にも見える美貌を持っていて、悲しみと思索を表現。状況を予測していたかのような理性や知性を表現している。

  • ユダ:顔が暗く描かれる。手に握りしめている銀貨の入った袋が「裏切りの証」として選ばれる。他の画家の「最後の晩餐」作品に比べて、キリストに近く配置されているのも特徴であり主題の一つとして明確に表現されている。

  • ヤコブ:身振り手振りが大きく、体の大きさと力強さで弟子の中で上位であるという地位を示している。責任感と父性を感じさせる姿に描かれている。

  • アンデレ:肘を曲げて両手を挙げている。驚いている、という表現がユーモラスであり兄弟であるペテロよりはやさしげな年寄りに見える。前のめりになる気の急いた兄弟と対比して温厚さを覚える。キャラクターの違いを出しつつペテロの勢いを強めるように機能する。

  • トマス:指を一本あげている。日本の価値観的には師匠にこのポーズをすることは不敬にあたる。しかしヨハネの記した、少しズレた性格と「疑り深い」というキャラクターをユーモラスに表現しているようにも感じる。あげた指は「裏切り者は一人ですか?」の意味。

  • その他の使徒たち:聖書での記述が少ない使徒たちは両端の方に配置されていて、具体的なメッセージ性よりもイエスの予言に「混乱している」という場の雰囲気を出すために作用している。

それぞれの人物に新約聖書で記述されたキャラクターを反映されているので、わずかな情報からダヴィンチがどんな考察をして十二使徒たちの人間像を現していったのかが楽しめる作品になります。

絵画は基本的に一瞬という時間を二次元でしか表現することの出来ない芸術作品ですので、それぞれの表情だけでなく手という仕草の一つ一つをしっかりと描写することで、キャラクターを補完する印象を与えていくことでストーリー性が増えるわけです。

損傷が激しい絵になりますが、ダヴィンチ作の「最後の晩餐」をじっくりと見つめながら使徒たちのキャラクターを想像してみるのも面白い行為になります。

まとめ

  • 十二使徒はキリストが高弟の中から選んだ伝道師たち
  • 使徒の仕事はキリスト教を広めること
  • 使徒の大半は殉教している(布教活動中に殺されている)
  • 十二使徒は詳細が聖書に書かれていない
  • 西方教会よりも東方教会のほうが使徒や聖人を高く評価する傾向をもつ
  • 日本での知名度は裏切り者ユダが最大である
  • ユダと名前が同じせいで評価が低くなった十二使徒もいる
  • 最後の晩餐はユダヤの祭日のディナーが舞台である
  • 最後の晩餐ではユダの裏切り、教団の離散、後の儀式に使うアイテムが示された
  • ダヴィンチの最後の晩餐に描かれている使徒たちはキャラクターが立っている

十二使徒たちはキリスト教を広めるため、さまざまな試練に挑むことになります。

キリストの死後も彼らが布教と教義の伝承を行ったことで、2000年つづく世界宗教は完成していくことになるのです。

十二使徒たちは「疑り深い使徒」もいるなど、どこかユーモラスな部分も感じられる人々でもあります。

彼らは完璧な聖者などではなく、人間的な感情をもったまま聖なる任務に命を捧げた人物たちなのです。

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