イスラム教徒にはラマダン(=断食月)と呼ばれる義務があります。決められた月のあいだ、飲食に関しての厳格な制限が課せられることになります。
イスラム教徒はどうしてラマダンを行うのでしょうか?
またラマダンのあいだの食事はどうしているのか、疑問は尽きないものです。
今回はイスラム教の義務であるラマダンについてご紹介してきます。
目次
ラマダンのルール
ラマダンはいつ行われるのか?
ラマダンの断食はイスラム教の正式な暦である「ヒジュラ暦」の9月に行われています。
ヒジュラ暦は完全な太陰暦であり、うるう月を採用していないものになります。
西暦=太陽暦が採用されている日本からすると、ヒジュラ暦の9月は毎年少しずつズレが生じることになるのです。
太陽暦とのズレは年間あたり11日になるため、3年でおよそ一月のズレが発生していくことになります。
- 2020年:4月23日木曜日の夕方から5月23日土曜日の夕方まで
- 2021年:4月12日月曜日の夕方から5月11日火曜日の夕方まで
- 2022年:4月2日土曜日の夕方から5月1日の日曜日の夕方まで
なお伝統的なラマダンの開催は、イスラム教の長老たちが新月を観測することで始まるのです。
月の観測が行えない雨天や曇りなどでは、開催の宣言が延期されることになりますが、現代ではおおよそ暦に従って行われています。
ラマダンの方法
ラマダンの開始が宣言されたあとはどうやって断食が行われるのでしょうか?
ラマダンの断食にはルールがあり、それは「日の出から日没までのあいだ、一切の飲食を断つ」というものです。
太陽が出ているあいだは飲食が完全に禁止されていて、太陽が沈んでいる夜は「いくらでも飲食しても良い」のです。
断食月とも訳されることがあるラマダンですが、一日中、飲食を禁止されている一ヶ月間ではないことになります。
なお飲食だけでなく、口論、性行為、喫煙、戦争なども規制の対象となるのです。
またラマダンは「聖なる月」であるため、夜には盛大な飾り付けや親族や友人たちが集まりラマダンを祝います。
ラマダンは祭りのような時期でもあるわけです。
ラマダンの目的
どうしてラマダンをイスラム教徒が行うのかといえば、イスラム暦の語源でもある「ヒジュラ」が関係しています。
ヒジュラとはイスラム教が出来て間もない頃に、迫害を受けていたイスラム教徒たちがメッカから他の町へと移動した出来事です。
その際にイスラム教徒たちが負った苦労を、ラマダンの断食によって追体験し、イスラム教徒たちの結束を強めることが目的になります。
また食べ物の大切さ、飢えの苦しみや貧困の辛さを身をもって知ることになり、それらへ対する募金も集められもします。
ラマダンに断食を行うことによって、イスラム教徒らしい道徳観や倫理観、つまりモラルを作り上げることにつながっていきます。
ポイントはラマダンの断食は苦行や痛みを目的にしてはいないというところです。
ラマダンの断食の目的は、イスラム教徒の歴史や伝統や共同体を通じて、イスラム教徒らしい精神的な正しさを手に入れることです。
断食はそのための手段でしかないため、断食を多くするほど尊いわけでもありません。
むしろラマダンでは、日没後すぐに食べることや、日の出ぎりぎりまで食べていることが推奨されているのです。
決められた期間、決められたルールを、イスラム教徒自身の意志で守ることこそが大切になります。
なお断食に耐えられずに食事をしようとして、食料が見つからなかった場合などは断食の成功にはなりません。
ついうっかり断食していることを忘れて飲食をしてしまった時は断食の失敗にはならないのです。
あくまでもイスラム教徒自身の意志で断食を行うことにより、モラルを育むことが大切なのです。
ラマダンの断食が免除される場合
ラマダンの断食が免除されることもあります。
乳幼児、妊婦、病人、老人などの健康にリスクが考えられる場合は免除されるのです。
また健康な成人であったとしても、旅行者や重労働を行う方の場合でも免除されています。
断食を絶対に行わなければ罰せられるというわけではありません。
旅行者などは後日、断食のやり直しを行えばいいのです。
宗教的モラルの育成のための行いであり、断食やそれによる苦痛そのものが目的ではないことを示すものになります。
ラマダン中の食事
夜のごちそうイフタール
「イフタール」とはラマダンの断食の時間が終わった後に食べる料理になります。
つまりはラマダンの時期のディナーであり、豪華なごちそうが用意されています。
またラマダンの夜のごちそうは多くの人々に振る舞うことが良いとされているため、イフタール・パーティーが開かれ、親族や友人を集めることになるのです。
ラマダンは断食だけの苦しい月ではありません。
大きな楽しみもあるわけです。
イフタール料理のルール
イフタール料理はどんなものであるべきかは決まっていません。
イスラム教が許可した食品(ハラール食品)を使ってあるものであれば、何でも良いのです。
ただし断食時間が終わったばかりなので、いきなりたくさん食べるのではなく、水や、イスラム教における神聖な食べ物であるナツメヤシの実を食べることも盛んに行われています。
これは教祖であるムハンマドが行っていた彼個人の習慣であり、とくに戒律で定められたものではありませんが、ムハンマドにならうように多くの方が行っているのです。
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ラマダンの歴史
ラマダンの始まり
ラマダンの断食はイスラム教徒たちがメッカから追放されたヒジュラの困難を追体験するためのものですが、その始まりはムハンマドの行動に関連しています。
西暦624年3月17日、ムハンマド率いるイスラム教徒とメッカを支配するクライシュ族の軍隊が戦闘を開始しました。
バドルの戦いと呼ばれる戦闘であり、ムハンマドは圧倒的に不利と予測されていたこの戦いに勝利します。
この戦いに勝利した月(ヒジュラ暦の9月)を祝い、断食をするようになったのです。
ラマダンの意味
ラマダンは断食を行う月になりますが、断食そのものを意味してはいません。
ヒジュラ暦の9月=ラマダンに断食を始めたのは上記の由来になりますが、ラマダンを神聖化している理由はもうひとつあります。
ラマダンの時期に神からコーランがムハンマドに授けられたとされているからです。
ラマダンは「聖なる月」という意味が本質であり、断食そのものを示す言葉は「サウム」になります。
しかしラマダンの断食のイメージが先行していった結果、イスラム諸国以外ではラマダン=断食というような扱いになっていったのです。
ラマダンの弊害?
経済に与える影響
聖なる月ラマダンでの断食は、その夜のパーティーなどの楽しみがあるためイスラム教徒の人々に歓迎される側面もあります。
しかしラマダンは昼間の断食と夜間の会食を伴うため、経済的なリスクが発生することがあります。
どうしても昼間の労働力が低くなりがちなため、仕事の効率は下がってしまいます。
ただし夜間の食料消費の増加については、経済を支える効果もあるわけです。
ラマダンの時期の消費は、食料品など拡大するものもあれば、車のような高額な商品の売れ行きについては減少するものもあります。
パーティーの食料は多く買いますが、高級品を買うという「ぜいたく」は、貧困の苦しみも学ぶことの一つに含まれているラマダンでは避けられます。
イスラム教の国々では、ラマダン前後のセールの存在や、ラマダン時期へ向けてボーナスを出すことなどによって、経済への影響をカバーする地域もあるのです。
経済的なメリットやデメリットがあるかどうかは国や地域の風習や経済のスタイル次第になります。
ラマダンの時期は太る
夜食を大量に食べること、そして昼間は断食に耐えるために昼寝をしていてもいいなど、カロリーの節約行為が許されています。
ラマダンは他の文化圏でいうのところの、正月やクリスマス休暇のような立場であるため、仕事量も減ります。
日本人が正月太りを起こすように、ラマダンでは断食しているにも関わらず体重が増えることさえあるのです。
アスリートは不利になる
ラマダン時期のイスラム教徒のアスリートは不利な状態に立たされてしまうことがあります。
昼間の食事が取れないことは、練習を行う際にも試合本番のコンディションにも影響してしまいます。
サッカー選手は3,500キロカロリー、ラクビーなどパワーを使う種目では4,500キロカロリーは必要とされます。
アスリートは練習だけでなく、食事のタイミングや栄養の成分の比率などを調整して試合に適した体脂肪率や筋肉内の糖質量を管理するものです。
そのためラマダンがアスリートに与える影響は少ないとは言えません。
まとめ
- ラマダンはヒジュラ暦の9月
- ラマダンは太陰暦の月であるため、西暦では11日ずつ毎年ズレていく
- 断食は手段である
- 目的はイスラム教徒としてのモラルの育成
- ムハンマドが敵に勝った/コーランを授かった月
- 夜はごちそう(イフタール)&パーティー
- 消費動向に影響を与える場合もある
- ラマダンでは太りやすい
ラマダンは若干の誤解を残しつつ広まっているイスラム教用語になります。
ラマダンはヒジュラ暦の9月であり、イスラム教にとっては聖なる月なのです。
断食そのものを示す言葉ではありません。
自分のモラルとイスラム教の義務に従い、団結を強める聖なる月になります。
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