世界には不思議な現象がいくつも存在しています。
それらのなかにはただの都市伝説もあれば、実在が確定できない現象も少なからずあるものです。
今回ご紹介するブライニクルは実在する正真正銘の自然現象になりますが、実際にその現象が起きる様子を撮影することに成功したのは2009年になります。
ブライニクルは海中で発生する一種のつららです。
「氷の竜巻」、「死のつらら」とも呼ばれ、海中の生物に死を招くこともある不思議な自然現象になります。
海が短時間のあいだに凍りついてしまい、それに生物を捕らえて氷漬けにしてしまうのです。
それでは、ブライニクルとは一体どのようなものなのか、そのメカニズムについても解説していきます。
目次
ブライニクルの観測
ブライニクルの意味
ブライニクル(brinicle)とは、海水(brine)と氷柱(icicle)を合わせて作った言葉になります。
1960年代には初めて観測が行われ、報告されているのです。
南極海などの極めて冷たい環境にある海中に、ブライニクルは発生します。
その姿は冷たい海に漂う海氷から伸びた「つらら」です。
ブライニクルは海氷から垂れ下がり、海底にたどり着くと、海底を這うように広がる連続した氷の構造体になります。
海底を這うように凍り付かせてしまい、これに巻き込まれたヒトデやウニを氷のなかに閉じ込めて命を奪ってしまうのです。
ブライニクルの研究:1974年に予測モデルが成立
ブライニクルの現象そのものは、上記した通りのものになります。
海氷から垂れたつららが、海底をも凍り付かせていくという不思議な現象です。
ブライニクルの存在が確認されると、学者のなかでどうしてそのような現象が起きるのかという研究が始まります。
有力な説は1974年、イギリスの海洋学者であるシーリー・マーティンによって提唱され、このマーティンの説が一般に広く受け入れられるようになったのです。
2009年:BBCによりブライニクルが形成される様子が撮影される
発生する理論こそ予測されていたブライニクルでしたが、実際にそれが一から作り出されていく様子が撮影されたのはマーティンが自説を提唱してから35年も経ってからでした。
撮影されたの南極大陸の一部分、ロス島でのことになります。
世界で最も南に位置する活火山を有するロス島の周囲の浅い海で、イギリスの有力テレビ局であるBBCのドキュメント番組撮影班がブライニクルの発生する様子の撮影に世界で初めて成功したのです。
それは2009年のことでしたが、2011年にドキュメント番組「Frozen Planet」で放映されたことにより、世界に知られるようになります。
海上を漂う氷から降りて来るつららが海底の生物たちをも凍らせていく光景の、始まりから終わりまでが撮影されているのです。
ロス島は南極大陸の一部の島
ブライニクルの仕組みや原因
ブライニクルはどこで発生するのか?
ブライニクルが発生するために必要なのは低温です。
そのため、南極海などの「冷たい海」でしかブライニクルは発生しません。
またブライニクルを生み出す母体となるのは海氷です。
冷たい海に漂う氷のカタマリがなければ、ブライニクルは作られません。
ブライニクルの発生するメカニズム
冷たい海では海上の気温が極めて低くなり、ときに海水そのものを凍らせ始めます。
このときに作られる氷は、もちろん海水に由来するものですが、じつは塩分があまりふくまれていないのです。
氷が発生するときに、塩分などの水以外のものが氷の中から押し出されていきます。
海氷はほとんど純粋な水で作られた氷となり、海水に溶けていた塩分やミネラルなどのイオンは、氷からこぼれ落ちていくことになるのです。
このとき氷から追い出された塩分たちは、氷の周囲にある海水に溶け出します。
そうすると塩分などの濃度がより濃く、通常よりも重さがある海水が生まれるのです。
この多くの分子が溶けた海水は融点も下がっているため、通常の海水よりも凍りにくくなっています。
こうして、通常の海水よりも「重く」、「凍りにくいため冷たい海水」が作られるのです。
この海水は海底めがけて海氷からこぼれ落ちるように沈むことになりますが、通常の海水を凍らせるに足る冷たさを持っています。
そのため、周囲の海水を凍らせながら、海氷から垂れさがる「つらら」のような氷=ブライニクルを形成していくことになるのです。
ブライニクルが海底を目指して伸びていく
ブライニクルを作っているのは、海氷からこぼれ落ちる「高濃度かつ低温の海水」です。
海水を凍らせながらつららにも見える「筒状の氷」を生み出していきます。
筒状の氷が巨大化していくと、ブライニクルを生み出す冷たく重い海水はさらに海底を目指して沈殿していくのです。
それと共に筒状のつらら(=ブライニクル)は成長していき、やがて海底に到達します。
このとき「海の流れ」が無いこと、また「海底の形状」も重要なポイントです。
ブライニクルが海底にたどり着くとき、海の流れがあれば「高濃度かつ低温の海水」が流されてしまうからです。
またブライニクルを作っているのは「高濃度かつ低温の海水」であるため、海底がくぼんでいるなどの「受け皿」となる環境が必要になります。
「高濃度かつ低温の海水」を「留めておくことの出来る環境」も、ブライニクルを海底にまで伸ばすには不可欠な要素です。
それらの条件が重なれば、ブライニクルは海底に到達し、海氷と海底をつなぐ氷の柱が完成します。
ブライニクルが海底で巻き起こす死
筒状の氷柱であるブライニクルが海底に到達すると何が起きるのでしょうか?
海上および海氷から海水を凍らすに足る「高濃度かつ低温の海水」が、ブライニクルから流れ出します。
この流れは海底を這うように進みながらも周囲の海水を凍らせてしまうのです。
海底を這う氷の道が作られてしまい、この道に巻き込まれたヒトデやウニなどは凍り付いてしまいます。
状況次第では多くのヒトデやウニの命を、ブライニクルは氷漬けにすることで奪ってしまうのです。
ブライニクルを生み出しやすい条件:適度な温度差と浅い海
ブライニクルが発生するためには「海氷が出来るほど冷たい海」、「潮の流れの少ない海域」、「海底に受け皿となるくぼみがある」という条件がいります。
またそれだけでなく、海水と気温の温度差がそれなりに必要です。
BBCが撮影に成功したとき、海上の気温はマイナス20.0度であり、海水温はマイナス1.9度になり、およそ20度ほどの気温差がありました。
ブライニクルを生み出すためには、この温度の差があるほどに良いとされます。
海上の気温が低いほどに、海氷が発生しやすく、より多くの「高濃度かつ低温の海水」が作られやすいからです。
またその濃度は高くなり、水温もより冷えるからになります。
なお海氷と海底をつなぐブライニクルが発生するには、浅い場所であることも条件です。
浅くなければ氷柱が巨大化しすぎて、やがて自重に耐えきれず崩壊してしまうからになります。
まとめ
- ブライニクルは南極海などの冷たい海で発生する。
- ブライニクルが初めてその全容を撮影されたのは2009年で公開は2011年。
- ブライニクルが出来る条件は、低温、流れが無い、低い水深、海底の形状がある。
- ブライニクルを生み出すのは海氷からこぼれ落ちる「高濃度かつ低温の海水」
- ブライニクルに巻き込まれた海底の生物は氷漬けにされてしまう。
極限環境では不思議な現象がいくつも起きるものです。
ブライニクルも極低温の世界で見られる特殊な自然現象になります。
現象そのものは特殊ですが、その理論自体はかなりシンプルです。
氷を浮かべた真水よりも、その水に塩を混ぜたときの方がより温度が下がるという不思議さが、ブライニクルを生みだしてもいます。
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