ユダヤ教、キリスト教、イスラム教にはメシア(救済者/救世主)という概念があります。
日本人にも想像しやすいメシアと言えば、キリスト教のメシアであるイエス・キリストかもしれません。
キリスト教の世界観によれば、メシアであるイエス・キリストによって世界に平和がもたらされることになっています。
しかしメシアはユダヤ教やイスラム教にも存在する概念であり、それらはキリスト教のメシアとは意味が異なっているものです。
今回は世界を救ってくれる存在、メシアについてご紹介していきます。
目次
メシアの役割
メシアという言葉の意味や由来
メシアはヘブライ語の「マシアハ」に由来する言葉です。
メシア=マシアハとは「油を注がれた者」や「油を塗られた者」を意味する言葉になります。
古代世界では王さまや集団の指導者などには特別な油を塗ったりすることで、その偉大さを称えたり、凡人と区別して聖なる者と示す風習があったのです。
つまりメシアとは、王さまや指導者という意味を持たされた「称号」になります。
なおメシアは英語では「メサイア」、ギリシャ語では「クリストス」とも記述され、「クリストス」が由来となってキリスト教という呼び名が誕生しているのです。
イエス・キリストとはキリストさん家のイエスくんという意味ではなく、「メシアであるイエス」という意味になります。
キリスト教はメシアの教えという意味なのです。
救済者としてのメシア
紀元前の古い時代においてメシアとは、王さまなどの指導者を示す言葉でしたが、時代が経つにつれて別の意味も持たされるようになります。
たんに王さまを示す言葉から、「理想的な指導者」を示す言葉になり、最終的には「宗教的な救済者/救世主」を示すようになったのです。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教が広まっている現代の社会では「宗教的な救済者」を示す言葉としてメシアが使われています。
では、救済者とは何をする立場なのでしょうか?
救済者について平たく言えば信者を苦しみや困難から救ってくれる存在です。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の世界観には「終末」という世界の訪れがあります。ここで善良な信者は復活して完璧な世界で暮らすことになり、異教徒や悪人は消滅させられます。
救済者=メシアとは、信者たちを終末のあとに来る新しい完璧な世界に導くための指導者=王という存在なのです。
信者としてメシアとその教えに従い善良であれば、死後の復活と新しい世界での幸福な日々が保証されるという契約が成り立ち、それを目指して信者は必死に信仰を守ることになります。
メシアは重要な概念ゆえに各宗教で考えが異なる
死後の幸せや復活という「特典」は宗教にとって重要視されるポイントです。
死への恐怖を克服するための伝統的な方法が、宗教に頼るという方法だからになります。
重要なポイントだからこそ、メシアという概念を持っているユダヤ教、キリスト教、イスラム教のそれぞれで考え方も違っているのです。
宗教のシステムを保証するシンボルのような存在であるため、それぞれの宗教にあったメシアが要求されるからになります。
キリスト教におけるメシア
キリスト教はメシア観が分かりやすい
キリスト教においてメシアとはただ一人です。
それはイエス・キリストのことだけになります。
イエス・キリストこそがメシアであり、イエス・キリストの教えに従ってキリスト教徒として善良に暮らせば、世界の終末が来たときにも復活させてもらえるのです。
キリスト教の世界観においてはイエス・キリストはメシアであり神の子であり、ときに神そのものと同一視までされる存在になります。
キリスト教のメシアの特徴
キリスト教では、メシアであるイエス・キリストを「唯一無二のメシア」として認定しているのが特徴です。
神の子であるイエス・キリストは絶対的な指導者であると共に、「信仰の対象」となっています。
本来は一人の神さまにのみ信仰を奉げるというスタイルが一神教なのですが、イエス・キリストを神の子としているキリスト教では、イエス・キリストは宗教の開祖である宗教指導者という以上の地位を持たされているのです。
これは一神教の考え方としては、少しばかり変わってはいますが、キリスト教は長い期間の議論を経て、三位一体説などを用いることで違和感を払拭するに至っています。
イスラム教におけるメシアの特徴
イスラム教にもメシアはいる
イスラム教はユダヤ教とキリスト教と同じく、旧約聖書や新約聖書の世界観を継承して生まれた宗教であるため、メシアという概念も当然ながら持っています。
ただし、イスラム教のメシアは複数いるのです。
人類の祖であるアダムや、大洪水から人類絶滅を救ったノア、エジプトから民を率いて脱出させたモーゼなども、メシアになります。
またイスラム教はイエス・キリストもメシアとして認めているのです。
しかしキリスト教とは異なり、イエス・キリストのことを「神の子」とは認めてはおらず、神さまから使命を与えられた「預言者」の一人としか考えてはいません。
イスラム教においては信仰すべき対象は「神さまだけ」であるため、イエス・キリストはもちろんのこと、開祖であるムハンマドのことも「預言者・指導者として尊敬するものの信仰の対象ではない」という考えを順守します。
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イスラム教のメシアの役目
イスラム教でのメシアは神さまの命令で動いている「宗教的な指導者」という立場が強いものです。
神さまから加護や幸運を与えられていたとしても、ただの人間になります。
イスラム教ではイエス・キリストはローマ人とユダヤ人に「殺されていない」という考え方があるのです。
イエス・キリストは磔刑にかけられたものの、殺されることなく天国に上って「待機中」のメシアとなっています。
世界に終末が訪れると、メシアであるイエス・キリストは地上に戻ってきて、偽物の指導者などを倒して、キリスト教やユダヤ教をイスラム教に組み込む仕事をするのです。
イスラム教においては「イエス・キリストを含め全ての預言者はイスラム教徒」になります。
イエス・キリストは指導者として地上を40年統治した後に死亡して、ムハンマドの墓のとなりに埋葬されると預言されているのです。
最終的に世界は全て天使によって破壊されますが、神さまが死者を蘇らせてくれます。
そして新しい世界において復活したあらゆる時代の預言者たちの指導者として、復活したムハンマドがイエス・キリストからバトンタッチされて宗教的な指導者となるわけです。
イスラム教のメシアはあくまでも人間の指導者であり、神の化身のような地位にメシアや預言者はなりえないのが特徴になります。
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ユダヤ教におけるメシア
ユダヤ教のメシアはたくさんいる?
ユダヤ教の経典である旧約聖書においてはメシアという単語は数多く登場します。
旧約聖書のメシアはユダヤ人の王であるダビデや、宗教指導者であるラビ、各預言者たちはもとより、祭壇や無発酵パンなどの人以外にも使われているのです。
聖なる存在や有能な指導者、戦争の英雄、宗教の上で重要だった物体などをメシアと呼びます。
バビロンの捕囚を行い、ユダヤ人たち(ユダヤ人以外にも多くの民族がいた)を強制移住させていた新バビロニア王国を倒して、ユダヤ人たちを解放した「キュロス2世」もメシアです。
アケメネス朝ペルシャの初代国王であるキュロス2世は、ユダヤ人でもなければユダヤ教徒でもなかったのですが、ユダヤ人からすれば救世主そのものでした。
広大な帝国を築き、多くの宗教に寛容であったキュロス2世の統治のもとでは、ユダヤ人は一度も反乱をすることはなく、メシア・キュロス2世の恩に報いたのです。
なおユダヤ教におけるメシアは「永遠の地位」を持っている存在ではなく、メシアが死亡したり役目を果たしたあとまでも永遠に祀られているわけではありません。
旧約聖書に登場するメシアはユダヤ人の王や指導者ですが、あくまでも人間なのです。
メシアを信仰するのではなく、神さま=ヤハウェを信仰することになっています。
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ユダヤ教の終末論のメシア
古くは多くのメシアと呼ばれる人々がユダヤ教にはいましたが、最終的に世界の終わりが訪れたときにユダヤ教徒を救ってくれるメシアについては、「まだ到来していない」ことになっています。
世界の終わりにメシアはダビデ王の血筋から生まれて、イスラエルを再建し、ダビデの王国の権威を回復したのち、世界に平和をもたらすと考えられているのです。
そのためイエス・キリストはユダヤ教徒からすればメシアという扱いにはなってはいないのです。
世界は平和にもなっていなければ、ダビデの王国の権威が再建されたり、全てのアラブ人が滅んだわけではないからです(終末論の一部としてアラブ人が滅び去るという記述もあります)。
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それぞれの宗教でメシアの扱いが異なる
- ユダヤ教のメシアは宗教指導者であり、旧約聖書には複数のメシアが登場する。ただし、世界の終わりにユダヤ人を救うメシアは「まだ生まれていない」。
- キリスト教のメシアとはイエス・キリストのことであり、イエス・キリストはダビデの子孫でもあり、「神の子でもあるため信仰の対象」である。
- イスラム教のメシアは複数いて、イエス・キリストもその一人であり、いつか地上に戻ってきてユダヤ教とキリスト教の考え方を否定して、「どちらもイスラム教に合流させる」。メシアや預言者は偉大だが、信仰の対象はあくまでも神のみである。
それぞれの宗教でメシアに対しての考え方や重要さには異なりがあります。
ユダヤ教では「メシアはまだ生まれていない」、キリスト教では「メシアはイエス・キリストだ」、イスラム教は「イエス・キリストもメシアだけど、神の子じゃなく人間の預言者で、イスラム教徒です」となっているわけです。
それぞれに考え方が異なっているため、論争の種にもなったり宗教同士での戦争や暴力の理由にもなっています。
まとめ
- メシアは終末が来たときに信者を救う人物
- メシアはヘブライ語でマシアハ
- メシアは油を注がれた者、油を塗られた者という意味
- メシアはメサイア、クリストスとも記述される
- メシアは宗教的な指導者や名君などの意味としても使われていた
- 旧約聖書ではメシアと呼ばれる人物や物体が登場し、無発酵のパンもメシア
- キリスト教のメシアは神の子イエス・キリスト
- イスラム教のメシアは複数いてイエスもメシアの一人であるが、イスラム教徒であり神の子ではなく人間の預言者
- ユダヤ教においては世界の終末に現れるメシアはまだ生まれていない
メシアは最終的に人々を救済に導いてくれる偉大な存在ですが、各宗教で違いがあります。
あくまで古代世界に生まれた宗教たちなので、メシアが世界を救うといっても「世界」という意味が一定の地域や一部の民族を示すものであり、地球全体を意味しているわけではないという見方もあるわけです。
メシアや宗教が「救う範囲」や「救い方」などには、「それぞれの時代に合わせた解釈」が必要なため、それぞれの時代において各宗教の神学者や指導者たちが調整を重ねてきました。
アラブ人が滅びたり、異教徒が全滅したりという攻撃的な古代の救い方では、グローバル化した現代人の価値観を納得させることが難しいからになります。
ですが、一部でそういった価値観を実践しようとする過激な宗教団体やテロリストがいるのも現実なのです。
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