トラジャ族とは?ミイラと暮らす民族を解説

トラジャ族

日本では、死者は穢れを発するとして忌まれますが、世界には日本とはまったく異なる死生観で生きる人々がいます。
インドネシアのトラジャ族は、死者と暮らすという我々日本人からすると驚くべき習慣を持っています。
その死生観、生活はいったいどのようなものなのでしょうか。

トラジャ族とは?

トラジャ族は、インドネシア・スラウェシ島の山間地域、タナトラジャに住む民族です。
「トラジャ」とは「山の人」「奥地人」という意味で、総人口は約60万人ほど。

タナトラジャは周りを1000メートル級の山々に囲まれています。
血統による階級社会が根づいており、先祖から受け継いできた伝統や文化を重んじ、多くがイスラム教徒であるインドネシアにありながら「アルク」と呼ばれる独特なアニミズム信仰にもとづいた生活を送っています。

トラジャ族の歴史

伝統家屋の「トンコナン」

大航海時代、ヨーロッパの国々がスラウェシ島にも進出し、17世紀になるとオランダに支配されるようになります。
この頃はまだ山岳地帯までは支配が及んでいませんでしたが、19世紀になってインドネシアのイスラム化が進むと、それを恐れたオランダは山岳部にも進出しキリスト教の布教を始めます。

それまで外部と接触する機会が少なかったトラジャ族は、伝統的な文化や独自の習慣を色濃く残してきました。
オランダは厳しい圧力をかけますが、トラジャ族は強く反発し、その伝統や文化はすたれることはありませんでした。

その後、トラジャ族はインドネシア独立戦争後のイスラム原理主義の激化を嫌い、キリスト教に改宗する人が増えます。
インドネシアは多くの人がイスラム教徒ですが、トラジャ族は現在では80%以上の人がキリスト教徒で、アルクをヒンドゥー教の分派のひとつとして定義した「アレクドトロ教」も認められています。

20世紀後半になると、タナトラジャはコーヒーと観光で世界的に知られるようになります。
インドネシア独立後に衰退していたタナトラジャのコーヒーを復活させ、有名にしたのは日本の「キーコーヒー」だそうですよ。

タナトラジャはインドネシアの観光の目玉となり、多くの外国人が訪れ、観光業が重要な産業となりました。
「トンコナン」と呼ばれる伝統家屋、木彫り細工や舞踏・音楽など、独自の文化が人々を惹きつけましたが、その中でも特に注目を集めたのが、独特の死生観から行われる葬送儀式でした。

トラジャ族の死生観、死と埋葬

故人はミイラ化され大切に扱われる

トラジャ族にとって「死」は特別なものであり、「死ぬために生きている」というほど重要な意味をもちます。
死は終わりではなく、“魂の地”へといたる過程の中のひとつとしてとらえ、葬式をするまで魂はこの地にとどまっているとされます。
そのため、肉体的な死を迎えてもすぐに葬儀を行いません。
遺体は香油を塗られ、帯で巻かれて乾燥されてミイラ化されます。
ミイラ化された遺体はしばらく家の中に保存され、「ランブソロ」と呼ばれる葬式を行うまで、家族とともに暮らし続けるのです。その間、死者は「病人」として扱われ、服を着せ、食事も用意されます。
この期間は1年以上にもわたる場合もあるそうです。

岩窟墓レモとタウタウ

タウタウ

死者との同居生活をしばらく続けたあと、「ランブソロ」と呼ばれる葬儀が行われ、死者はようやく埋葬されます。
といっても、トラジャでは遺体を地下に埋めません。
崖に穴を掘られた室や、洞窟に安置されたり、崖に吊るされたりします。
これら岩窟墓「レモ」は、死者が早く天国に行けて、死後の生活がよいものであるようにとの願いを込めたものです。

埋葬(といっていいのかわかりませんが)場所の入り口には、「タウタウ」という生前の姿をモデルにした木製の人形が設置されます。
タウタウは故人の服や装飾品を身につけ、頭髪が植毛されることもあります。
一見不気味な光景ですが、先祖代々暮らしてきた村を見守ってくれているそうです。
タウタウの右手は手のひらを上に、左手は手のひらを横に作られています。これは「水牛とお金をお供えしてくれたら、天国から恩恵を授けますよ」という意味をあらわしています。

葬儀ランブソロとは?

葬式の様子

トラジャ族にとって、葬式「ランブソロ」は、人生で最も重要なイベントとされています。
ランブソロは親類縁者だけでなく近隣の人々まで数百人が集まる大規模なものになることもあり、かける金額は日本円にして数千万円以上に及ぶこともあります(トラジャ族の平均月収は1〜2万円程度)。

タナトラジャでは、水牛が死者を天国に連れて行くと考えられ、多くの水牛を生贄にすれば、それだけ天国に早く着くとされます。
そのため、訪れる人々は水牛や豚を持参します。
生贄にされた水牛は人々に振る舞われ、角や皮まで余すところなく利用され、分配されます。
日本のしんみりとした葬式と違って歌や踊りが続く賑やかなもので、観光客もごく少量のお供えをすれば参加できます。

ランブソロの最中はさまざまな儀式が行われ、通常は3日から数日間、時には数年かけて行われることもあります。

トラジャ族が故人をミイラにする理由

ランブソロには巨額の費用がかかるため、用意するためにかなりの時間がかかります。
トラジャ族は、生前にかかったお金よりもランブソロにかける費用のほうがはるかに高いといわれており、生きているうちから自分の葬式のために貯金をするそうです。
死ぬまでにお金が貯まらない場合も多く、ミイラ化した遺体と同居するというのは、ランブソロの費用が貯まるのを待つという側面もあるようです。

ミイラ化して遺体と暮らす期間は、一大イベントであるランブソロへの準備の期間でもあり、遺族にとっては悲しみをいやし、心を整える期間でもあるのです。

また、ランブソロの後も、3年に1度、墓からミイラを掘り起こし、服を着せ替えたり一緒にに過ごす”マネネ”という風習も存在します。

まとめ

「死ぬために生きている」トラジャ族の人々にとって、死は終わりを意味するのではなく、未来につながっていく神聖なものなのですね。
死者と一緒に暮らすというのは驚きの風習ですが、日本でも古代に行われていたとされる「殯(もがり)」という儀式と似ているかもしれません。そう考えると親近感がわくかも…
そんなトラジャ族の社会も、古くからの伝統や文化が世俗化し、良くも悪くも変化の時期を迎えているとされてます。
その良さを失わず、いい方向に進んでほしいものですね。

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