ヤノマミ族とは?シロアリに捧げる精霊返しや特徴、暮らしなど解説

南米のジャングルには多くの民族が住んでいます。

彼らの多くは近代的な暮らしから距離のある生活を行っている場合が多いものです。

ヤノマミ族もそんな民族の一つであり、彼らはかなり原始的な暮らしをしており、一万年前の文化をそのまま受け継いでいるとも考えられています。

今回の記事は南米のヤノマミ族の文化や価値観などをご紹介するものです。

彼らのもつ特徴や、彼らが抱えるリスクなどもご紹介していきます。

ヤノマミ族の基本的な情報

ヤノマミ族が住むシャボノと呼ばれる住居(出典:Survival International)

ヤノマミ族の住む国と人口

ヤノマミ族は南米のブラジルベネズエラの国境付近のジャングルに住んでいます。

ブラジル側には1万人ほど、ベネズエラ側には1万5000人ほどが住んでいると考えられており、その総人口は2万5000人ほどです。

ヤノマミ族はおよそ50人から500人の集団に分かれて、ジャングル内部に村を作って暮らしています。

村では「シャボノ」と呼ばれる木製の共同住宅に暮らしており、シャボノは「巨大な一つ屋根の家」です。

巨大な一軒家であるシャボノのあいだは壁などで区分けされているため、それぞれの家族が一つの「部屋」に住み、それがいくつも連なっているのがシャボノになります。

ヤノマミ族は100を超える集団に分かれていて、この集団はそれぞれに同盟を組んだり、また敵対して戦争などを行っているのです。

ヤノマミ族の暮らし

キャッサバを収穫するヤノマミ族(出典:Stillunfold)

ヤノマミ族が食料を得るための方法は狩猟採集という原始的なスタイルになります。

キノコキャッサバ(イモの一種)やフルーツを採集し、また小規模ながら農業も行っており、その農業のスタイルは焼き畑であり、バナナを好み育てることがあるのです。

盛んに植物が生えるジャングル内部の土壌はそれほど豊かではないため(植物の成長が栄養を奪う)、農作物の成長に必須であるカリウムなどを回収するためには植物を焼き払うことで、植物そのものから回収することが必要になります。

動物などの狩りは男性の仕事となり、槍や弓などで野生動物を狩っているのです。

この狩りを行ったハンターは、獲物の肉を仲間に与えて自分は食べません。

自分は仲間のハンターが取った肉を食べるというルールをもっているのです。

またヤノマミ族は多くの植物に関する知識をもっているため、その狩猟には十種類以上もの毒を用いています。

矢に毒を塗るなどの方法により、ヤノマミ族は狩猟の名手でもあるのです。

狩猟にせよ採集にせよ基本的には豊かなジャングル内で暮らしているため、小規模な集団が暮らすためには多くの労働時間は必要とされず、平均的な労働時間は4時間ほどになります。

ヤノマミ族の言語

ヤノマミ族の言語は「ヤノマミ語」になります。

ヤノマミ語における「ヤノマミ」とは「人間」という意味なのです。

ヤノマミ族は方言によって四つのグループに分類することが可能になります。

ヤノマミ語を含む、より大きな言語の集団は残念ながら不明です。

18世紀には近隣諸国で原住民の言葉を禁じる法律などが施行されているため(ヨーロッパの植民地政策の影響です)、南米の原住民の言語についてまとめ上げることは一部で困難な作業になります。

ヤノマミ語もその一つであり、他の民族が使っている言語との関わりはよく分かってはいません。

なおヤノマミ語には「雨」に関する言葉が数十種類もあります

ジャガーの雨や蝶の雨など、「雨」に対して非常に細かな感性をもって捉えている民族なのです。

ヤノマミ族の見た目:女性は顔に棒を刺す?

アジア人と見た目がそっくりなヤノマミ族(出典:wikipedia)

ヤノマミ族は南アメリカの先住民族になり、その先祖は1万年以上も前にユーラシア大陸からベーリング海峡を超えて南北アメリカ大陸に渡ったグループと考えられています。

そのため見た目はアジア人にそっくりです。

ヤノマミ族のファッションの特徴としては、髪型はおかっぱになります。

男女問わずにおかっぱですが、男性よりも女性のほうが髪を長くしているのです。

また女性は赤い土を化粧として肌に塗り込んでいます。

肌には模様を描くことをファッションとして行い、初潮を迎えた女性などは竹串などを鼻や口回りの皮膚に突きさすこともヤノマミ族の伝統的なファッションです。

鳥の羽や石材を用いてビーズのネックレスなどを作ることもあります。

また基本的に全裸ですが、植物繊維を織り込んでつくりあげた布で、一種のふんどしやスカートのようなもので陰部を隠してもいるのです。

ヤノマミ族の特徴

ヤノマミ族は低血圧の民族

ヤノマミ族は最高血圧が100㎜Hg以下とされており、これは世界的にも最も平均血圧が低い民族であることを示す数字になります。

ヤノマミ族が「低血圧」である理由について、有力な説の一つが塩分摂取量の少なさです。

ヤノマミ族の食事にはほとんど塩が含まれていることはなく、塩分摂取の結果として引き起こされると考えられている高血圧が起きていません。

塩分が多い食事ほど高血圧と、それに起因する心筋梗塞や脳梗塞・脳内出血、腎臓などの各種の病気を引き起こすリスクを招くと考えられています。

ヤノマミ族はほとんど塩分を摂取していないため、血圧の上昇がないのです。

なおWHOの推奨では高血圧を防ぐためには一日で4グラム以下の食塩量であるべきだとされていますが、塩分が多い日本の食品では一日に11グラム以上は食べているとされます。

日本での高血圧治療では一日6グラム以下を目指していますが、これでもWHOや国際的な基準から比べると明らかに高く、日本人の高血圧の多さの大きな要因が塩分の多い食事だと考えられているのです。

ヤノマミ族は塩分の摂取をほぼしておらず、自然の食材からそのままわずかな塩分を摂取しています。

一日で0.08グラムほどであり、一日1グラムしか食べないとされる低血圧の多い民族よりも10分の1しか摂取していない数字です。

ヤノマミ族のもつ細菌

体内には常日頃から多くの細菌が存在していますが、ヤノマミ族の体内にも無数の細菌がいます。

そして彼らの体内にいる複数の細菌に対しては、「抗生物質が効かない」細菌がいるのです。

抗生物質は細菌に対してはきわめて有効な薬なのですが、ヤノマミ族の体内にはそれに耐性をもつという珍しい細菌がいます。

こういった細菌を採取して研究することで、多くの医学的なメリットが得られることがあるため、ヤノマミ族などのジャングルで暮らす民族の研究は貴重な行いなのです。

ヤノマミ族の健康

ヤノマミ族は血圧の上昇は抑えられていますが、その平均寿命は40才ほどと現代的な暮らしをしている我々からすれば、とんでもなく短いものです。

ヤノマミ族の暮らすジャングルは栄養価に乏しい食事しか行えず、またケガをする機会もあれば病原菌も多く存在しています。

もちろん近代的な医学のサポートを受けることは困難であるため、現代医学で治癒が可能な病気でもすぐに死亡することがあるのです。

また長年、外部との接触がなかったため、ヤノマミ族は現代社会にあるインフルエンザやはしかなどに対して免疫をもっていません。

そのためインフルエンザやはしかなどによる死者が大量に出てしまうこともあります。

アルコールや糖質の高い食事とも縁がなかったため、現代の文明からそういったものが流れ込むとアルコール依存症や急性アルコール中毒、虫歯や糖尿病なども起こしやすいのです。

ヤノマミ族は好戦的?

ヤノマミ族は100以上のグループに分かれて、お互いを攻撃しあうことが日常です。

ヤノマミ族の村では男同士のケンカが絶えることはなく、そのケンカを周囲の人が止めるという文化はありません。

双方のどちらかが戦意を喪失するか骨折などの大きなケガで戦いが行えなくなるまで続きます。

敵対するグループの村に対する襲撃は残酷なもので、男と赤ちゃんは殺し、女性は捕虜・奴隷として回収するという方針です。

基本的に男尊女卑の社会ではあり、戦闘の多い暮らしがその傾向を強めているのかもしれないと考えられていますが、戦場では一般的に見られる行動でもあるため、特別にヤノマミ族が好戦的というわけではないのかもしれません。

ヤノマミ族の宗教

ヤノマミ族の宗教観とリーダーシップ

ヤノマミ族はシャーマニズムを信じています。

人間もふくめた自然一般にヤノマミ族の哲学に規定された「一定のルール」があると考えられているのです。

ヤノマミ族はそのルールを守りながら暮らすことを、モラルの一つとしても使っています。

ヤノマミ族のシャーマンは幻覚性のある植物などを用いて、精霊などと交信することを行い、そういった儀式には男性が参加することも多くある一方、幻覚性植物を使用する女性は稀です。

ヤノマミ族の男性は8才になると、男性グループの一員として迎えられるようになります。

村長などは他の村との交渉時には機能しますが、基本的には村のことは村の男性同士の話し合いで決めることを選び、絶対的な権力者やリーダーはいません。

シャーマンも男性の多くが兼任し、ある意味では男性の誰もがシャーマンであり政治的なリーダーと言えます。

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ヤノマミ族の価値観

ヤノマミ族は過去に囚われることを基本的に嫌っています。

そのため死者の名前を語ることや、死者について思い出す行為も一種のタブーであり、「死者のための日」などの祭日以外では死者については誰も語らないようにしているのです。

ヤノマミ族の価値観では、「現在」を重要視して生きるべきだと考えられています。

また命は自然のなかで循環するという、シャーマニズムやアニミズム(自然崇拝)にはよくある考え方を持ってもいるのです。

死についてこだわることをヤノマミ族は好まず、死に対してはある意味ではドライな考えを持っています。

ヤノマミ族の結婚観

ヤノマミ族の女性が妊娠し出産する年齢はおよそ14才です。

初潮が始まると一人前の女性とみなされるようになります。

なお明確な「結婚」という制度はなく、恋人関係にあるような男女が何となく一緒に暮らしていたり、女性に対して支配力のある父親が女性とその子供を家長としてまとめているというスタイルです。

結果としては一夫一妻のようなスタイルになりますが、結婚に縛られてはいないため自由恋愛というか、かなり自由な暮らしをしています。

ヤノマミ族のシロアリを使う精霊返しとは?

ヤノマミ族とシロアリの巣(出典:Peter Menzel)

ヤノマミ族にとって出産と生まれてきた子供は、必ずしも喜ばしいこととは限りません。

ジャングルという過酷な環境で暮らし、食料を蓄えるという行為にそれほど積極的でもない価値観では、子供を育てることは大きな負担になるからです。

また結婚制度もないために、生まれた子供に対する責任は若い女性一人に任されることもあります。

ヤノマミ族の女性が出産した子供を「育てるか」それとも「殺す(いわゆる嬰児殺し)」ことになるかは、母親の判断に任されているのです(とはいえ男性の発言権も強いため、父親が育てることを望めばそちらが優先される)。

ヤノマミ族では、へその緒がつながったままの新生児は「人間である」という認識はされていません。

その状態ではまだ人間になる前の「精霊(せいれい)」であり、母親が育てると決めてへその緒を切断したときから人間です。

母親が育てることが困難であると判断した場合は、新生児は生きたままシロアリの巣に投じられることになります。

無数のシロアリは新生児をすぐに食べてしまい、その後はシロアリの巣ごと新生児の遺体を火にかけて燃やすのです。

ヤノマミ族特有の宗教観

ヤノマミ族にとって命は循環する存在です。

大地で生き、空でも生きるとされています。

人も虫も鳥も、すべては精霊の一形態に過ぎず、どれもが循環しながら不滅の存在なのだと考えているのです。

そのため精霊であり人ではない「育てられないと判断された新生児」を、シロアリという空を飛ぶ虫と一つにして、さらに焼くことで煙として空へと送り出しています。

精霊返しは生活のために人口を減らすという行為である一方で、ヤノマミ族の宗教的な考え方からくる合理的な行いでもあるのです。

また精霊返しは新生児にのみ行われるわけではなく、葬儀の一般的な方法として、ヤノマミ族は死ぬとバナナの皮に死体をつつみ、シロアリの巣に投じてシロアリに食べさせます。

その後、シロアリの巣に火をつけるのです。

一種の火葬を行い、その後、遺灰をスープの具材として使うことになります。

ヤノマミ族=人間が、生命の循環を行う自然という大きなルールの一部の囚われであるということを示すような葬儀の方法なのです。

なお上述の通り、死者について語ることは一般的にタブーに含まれています。

ヤノマミ族の現代のリスク

ヤノマミ族とゴールドラッシュと開発

ヤノマミ族の居住地の近くに金鉱山が発見されているため、ひそかにその金鉱山を採掘する業者とのあいだに衝突が起きているという報告もあります。

業者からすればヤノマミ族の存在は邪魔であるため、一方的な虐殺などが行われたこともあるのです。

またヤノマミ族の暮らすジャングルを開発するため、ブラジルの農家などがジャングルを焼き払ってもいます。

ブラジルの大統領の政策により、ジャングルへの積極的な放火は推奨されているため、それはヤノマミ族の狩猟と採集というライフスタイルには大きなダメージを与える行為です。

またヤノマミ族はベネズエラとブラジルの国境近くに住んでいるため、国境警備のための軍事組織の基地が近くに建てられています。

ヤノマミ族の暮らしを積極的に守る政府はいない

国際法の上では先住民族の暮らしは守られるべきとされていますが、多くの国や土地で先住民族が土地の所有もふくむ権利を持っていることは少ないものです。

ヤノマミ族に対しても保護区や自治区などの設定は厳格にはされてはおらず、ヤノマミ族の暮らすために必要なジャングルには開発が横行しつつあります。

ヤノマミ族自体も外部と接触したことで、外部の暮らしを好む若者が増えていくなど、民族や文化の消滅はゆっくりとながら確実に起きてはいるのです。

ヤノマミ族の独特な暮らしは学術的に貴重なものである一方で、それが本当に幸せなものなのかという価値観の比較においては、ヤノマミ族自身も含めてジャングルの暮らしを好むとは必ずとも限りません。

ヤノマミ族もまた減少しつつある民族なのです。

まとめ

  • ヤノマミ族はブラジルとベネズエラの国境近くのジャングルに住んでいる
  • ヤノマミ語は四大グループに分かれ、「雨」の使い方がたくさんある
  • ヤノマミ族は2万~2万5000人ぐらいいる
  • ヤノマミ族のファッションは裸が基本
  • ヤノマミ族は初潮を迎えるあるいは妊娠すると鼻や顔に棒を刺す
  • ヤノマミ族は赤土を化粧として使用する
  • ヤノマミ族は村単位で一つの巨大な家シャボノに住む
  • ヤノマミ族の宗教はシャーマニズム
  • ヤノマミ族は男尊女卑で政治と宗教を担うのは男性の話し合い
  • ヤノマミ族は赤ちゃんを「精霊返し」で殺害することがある
  • ヤノマミ族は死ぬとシロアリに死体を奉げる
  • ヤノマミ族は塩分が少ない食生活であるため血圧が低い
  • ヤノマミ族は性的に奔放

ヤノマミ族は原始的な暮らしを現代に残す民族です。

しかし輪廻転生に近いシャーマニズムや精霊返しの風習は、日本のシャーマニズムやアニミズムとも似通った部分があるようにも感じます。

万物に精霊が宿り、それが一定の法則で循環するという価値観や、シロアリを聖なる運び手として選ぶなどの考え方は興味深いものです。

ヤノマミ族は人類の本能的な考え方を現代に伝えてくれているように感じます。

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