パシュトゥーン人とは?特徴や宗教、歴史、有名人など解説

中東地域には多くの民族が存在し、その民族の多様性が独自の価値観を生むこともあれば、価値観の違いから衝突と暴力を生むこともあります。

パシュトゥーン人は中東における民族の一つであり、複雑な歴史と独特の文化をもつ集団です。

今回は中東の民族の一つであるパシュトゥーン人の特徴や宗教、そして近代史も含めた歴史をご紹介していきます。

パシュトゥーン人の基本情報

パシュトゥーン人がいる国

パシュトゥーン人は主にアフガニスタンとパキスタンに居住している民族です。

アフガニスタンでは人口の42~60%であり、アフガニスタンで最も人口の多い民族集団になります。

人口の割合が42%~60%と大ざっぱな理由については、アフガニスタンにおいて人口の調査が正確にされていないためです。

パシュトゥーン人は多くの異名を持っていますが、「アフガン人」もその一つにです。「アフガニスタン(アフガン人の土地)」という名前が示す通り、アフガニスタンはパシュトゥーン人の支配下にある土地なのです。

また隣接するパキスタンでも人口の15%がパシュトゥーン人であり、政治家や役人、軍の将校などの支配層にパシュトゥーン人が多くいて、パキスタンにも強い影響力を持っています。

人口の15%ほどですが、パキスタンの人口が2億人を超えているため、最も多くのパシュトゥーン人が住んでいる国はパキスタンです。

パキスタンには3280万人のパシュトゥーン人が住んでおり、アフガニスタンには1460万人のパシュトゥーン人が住んでいます。

その他にもパキスタンに隣接しているインドにも320万人が住み、世界全体では5000万人以上の総人口となるのです。

パシュトゥーン人の起源

パシュトゥーン人の起源については多くの説があり、「複数の民族が混じって作り上げられた民族」だと考えられています。

アフガニスタンには少なくとも5万年前から人類が暮らしていた形跡があり、およそ4000年前には古代インド人や古代イラン人の侵入があったと考えられているのです。

またアレクサンダー大王の東方遠征について来た兵士たちの生き残りだと自称するグループもパシュトゥーン人にはいます。

イラン高原にいた有力な騎馬民族であるフン族から分かれた集団も、パシュトゥーン人の有力な祖先の候補と考えられているのです。

モンゴルを由来とする騎馬民族の血も入っている可能性もあり、西遊記で有名な三蔵法師もアフガニスタンを通過するなど、古代から中国とも関わりがあります。

10世紀頃からはイスラム教の支配がアフガニスタンでは強くなりますが、7世紀には三蔵法師が立ち寄った仏教国「ブリジスターナ」がアフガニスタン中部にあったとも考えられているのです。

ブリジスターナ候補の遺跡は、2019年にアフガニスタンで発見され、古代のアフガニスタンには仏教勢力も存在してことを示す発見です。

さらに近代史で言えばインドを植民地支配していたイギリスなどの影響も受けているため、西欧系の血も少なからず流入しています。

アフガニスタンは古来よりイラン=ペルシャという大国と、インドという大国にはさまれていたため、歴史的に大国の影響を受けて戦乱に巻き込まれたり、他民族の流入が起きたのです。

そのためパシュトゥーン人は数千年単位での混血が進んでいるため、民族的な起源を特定することは難しいのです。したがって、「おそらく多くの先祖を持つ民族だろう」と言えます。

遺伝学上はアフガニスタン周辺の民族に特徴的な傾向をパシュトゥーン人は持つため、多くの民族と混血しながらも、アフガニスタン周辺に住み続けていた民族だと予測されているのです。

パシュトゥーン人の外見的な特徴

パシュトゥーン系インド人女優・マドフバラ
(出典:wikipedia)

パシュトゥーン人は混血が進んでいるためか外見には多様性があります。

一般的にはコーカソイドいわゆる白人に近い見た目をしており、イラン人=ペルシャ人のような傾向を持っていますが、肌の色や髪の色、瞳の色などの色素にも地域差や各集団において差が見られることが特徴です。

またパシュトゥーン人には美形が多いとも考えられており、インド映画の本拠地であるボリウッドの俳優・女優も多く輩出しています。

インドの伝説的なパシュトゥーン人女優であるマドフバラ(Madhubala)は、「パシュトゥーン人は美しい」というイメージを作り上げることに貢献した人物になるかもしれません。

多様な祖先を持っていることから生み出されるエキゾチックな魅力を、パシュトゥーン人は美貌として使っているのです。

パシュトゥーン人はイラン人=ペルシャ人とインド人とギリシャ人とモンゴル人と中国人にも祖先がいるからこそ作り出されるエキゾチックさがあります。

実際にはもっと多くの種類の血筋が流入しているとも考えられており、エジプト人の血も引いているという説まであるのです。

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パシュトゥーン人の宗教と文化

パシュトゥーン人の宗教

パシュトゥーン人の現代の主要な宗教はイスラム教スンニ派になり、割合では圧倒的多数をなります。

スンニ派についでシーア派、キリスト教などの他宗教や、無宗教者などが続いているのが現代の特徴です。

しかし7世紀~10世紀にかけて起きたイスラム化よりも以前は、仏教徒やヒンドゥー教徒も多くいたと考えられています。

またゾロアスター教や太陽神の崇拝者、アニミズム(自然崇拝者)、ユダヤ教徒(一部のパシュトゥーン人は古代イスラエル人の子孫と主張している)もいたと考えられてもいるのです。

古代バビロニアの女神イナンナ=イシュタルとも関わりを持つとされる武神にして女神ナナの崇拝者も、古代のアフガニスタンにいたパシュトゥーン人は信仰していました。

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パシュトゥーン人の文化

伝統舞踊の「アタン」

パシュトゥーン人の文化は、イラン=ペルシャ系の文化とインド系の文化のミックスと言えるものです。

パシュトゥーン人には独特のダンスである「アタン」もあり、結婚式や宴会、そして戦争などのイベント時に音楽と共に捧げられています。

ドラムのビートに合わせて踊ることが多い伝統舞踊ですが、パシュトゥーン人のそれぞれの部族によって流派が異なっているのも特徴です。

50~100人で集団で踊るダンスであり、銃や剣などの武器も小道具として使うスタイルもあるなど、アタンの種類は多くあります。

イスラム教の神秘主義であるスーフィズムの旋回するダンスに影響を受けたものもあるとされますが、その原点は古代ゾロアスター教の儀式であるとも、はるか古代の戦士たちの舞踏ともされているのです。

パシュトゥーン人は馬術も好み、馬の背から家畜の死体を取り合うスポーツや、弓を使った射撃も好みます。

現代で最も好まれているスポーツはクリケットであり、サッカーもそれなりに人気があるのです。

パシュトゥーン人の掟「パシュトゥーン・ワリ」

イスラム教徒であるパシュトゥーン人はイスラム教のルールを守りますが、それとは別に「パシュトゥーン・ワリ」という独自のルールを持っています。

パシュトゥーン・ワリには、ターバンを巻くことヒゲを必ず伸ばすこと女性の衣服に対する制限などがあり、パシュトゥーン人は自分たちだけでなく他者にも強制することを好むのです。

そのため民族間で文化的な対立を招くこともあり、他の民族からは嫌われることもある独自の風習になります。

パシュトゥーン・ワリには「敵から追われている者は、命をかけても守れ」というものがあり、作戦に失敗して逃亡しているアメリカ軍の兵士をパシュトゥーン人がその伝統に従い匿ったという現代の逸話も残っているのです。

パシュトゥーン人の歴史

パシュトゥーン人の古代史

パシュトゥーン人は古代イランの支配下にあり、紀元前330年頃には古代イランを倒したギリシャ人勢力であるマケドニア軍(アレキサンダー大王の軍勢)の影響を受けるようになります。

ギリシャ人勢力が引くと、インドからも圧力を受けるようになり、古代の時代ではイランとインドの勢力下にありました。

インダス文明の末裔たちや、ゾロアスター教、古代のイランとインドのあいだの共通の神話や、それから派生した仏教などの影響を受けた国や集団もアフガニスタンでは生まれます。

パシュトゥーン人の中世史

イスラム勢力がアラビア半島から勢力を拡大していきイラン=ペルシャがイスラム化をしていくと、7世紀~11世紀にかけてアフガニスタン周辺もイランの影響を受けてイスラム化が進むようになります。

パシュトゥーン人の多くがイランの帝国の支配下におかれ、やがてイランの影響力が落ちていくとインドのムガル帝国の影響を強く受けるようになるのです。

パシュトゥーン人の近代史

インドがイギリスに植民地支配され始めると、今度は北に位置するロシアからの影響を受けるようになります。

イギリスもロシアに対抗するために、アフガニスタンに影響力を使うようになっていくのです。

第二次世界大戦後でロシア(=ソ連)はアフガニスタンに侵攻するようになり、これに対抗するためアメリカやイスラム教徒の多い国々から援助を受けるようになります。

後のイスラム教のテロリストであるウサマ・ビンラディンや、多くの志願兵がアフガニスタンに集まり、アフガニスタンの軍閥は力をつけて、対ソ連だけでなく民族・部族間における紛争も激化します。

混沌するアフガニスタンで、イスラム教とパシュトゥーン文化を礼賛する「タリバーン」が設立されて民衆の支持を獲得していくのです。

アフガニスタンを支配してイスラム化やパシュトゥーン文化の普及を進めるようになりますが、一度は衰退し、そして現在は勢力を復活しアメリカと和平を結びました。

なおインドと対立しているパキスタンとしては、アフガニスタンを自らの勢力に組み込みたいという思惑もあるため、どちらの国にもいるパシュトゥーン人を両国の結束や連帯を作り上げることにも利用しています。

一部のパシュトゥーン人たちには、パシュトゥーン人だけで独立国家を創ろうという目論見もありますが、今のところは政治的な強さはそれほどにはありません。

パシュトゥーン人と有名人

マララ・ユスフザイはパシュトゥーン人

マララ・ユスフザイさん(出典:wikipedia)

パシュトゥーン人にはタリバーンに頭部を撃たれるも生還し、ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんもいます。ちなみに、「マララ」という名前はパシュトゥーン人の英雄である「マイワンドのマラライ」が由来です。

女性の人権が存在しないも同然のアフガニスタンのパシュトゥーン人文化において、彼女の父親は女子学校を経営していました。

女性に対しての教育を志す人物であり、彼女も勉強に励む女子生徒です。

タリバーンは女性が学問を行うことを悪徳と見なしているため、子供であった彼女を射殺しようとテロを決行しますが、彼女は生き延びました。

マララ・ユスフザイさんはその後、女性の権利を主張して世界的に有名な少女になります。

銃撃されても女性の権利を訴えという勇敢な行動から、彼女はノーベル平和賞受賞者の一人となったのです。

タリバーンはマララ・ユスフザイさんを襲撃した実行犯を一部逮捕していますが、他の実行犯については野放し状態でもあります。

タリバーンもまた内部が一枚岩といえる組織ではないため、それぞれのグループにより危険性や思想が大きく異なってもいるのです。

マララ・ユスフザイさんはイスラム世界において女性の権利を訴えるシンボルでもありますが、パシュトゥーン人の伝統的な価値観でもある女性蔑視とも戦っています。

パシュトゥーン人と中村哲さんとの関係

中村哲さん(出典:wikipedia)

日本人医師である中村哲(なかむら てつ)さんはアフガニスタンの医療だけでなく、農業の支援なども含めてアフガニスタンに対して長年にわたって貢献しつづけた人物です。

多くのパシュトゥーン人とも交流がありましたが、アフガニスタンで武装勢力の襲撃により2019年12月に殺害されてしまいました。

アフガニスタンでも有名であり、パシュトゥーン人にも敬愛されていた中村哲さんを殺害したことを、パシュトゥーン人の組織であるタリバーンは否定しています。

テロリストは犯行後に名乗り出ることが通例であり、中村哲さん襲撃は突発的な事故ではなく計画的な犯行とも考えられるため、テロリスト=武装勢力が犯人ではない可能性も考えられているのです。

アフガニスタンでは価値の大きな利権である、「水」を巡っての争いに中村哲さんは巻き込まれた可能性もあります。

政治的な理由ではなく、経済的な利権を巡っての争いもアフガニスタンでは頻発し、アメリカ軍の侵攻以降のおよそ20年間、治安も平和も存在してない状況です。

2014年~2019年、毎年1万人を超える民間人の死傷者を出す混沌とした惨状となっており、中村哲さんは死傷するリスクを知った上でアフガニスタンに大きく貢献してきた人物になります。

中村哲さんはパシュトゥーン人からも愛される人物であり、アフガニスタンで亡くなりました。

まとめ

  • パシュトゥーン人はアフガニスタンとパキスタンに多い
  • パシュトゥーン人の起源は複雑
  • パシュトゥーン人の先祖候補には、フン族、ペルシャ人、ギリシャ人、インド人、エジプト人、古代イスラエル人までいる
  • 現代のパシュトゥーン人はイスラム教徒
  • イスラム化以前のパシュトゥーン人はゾロアスター教や仏教も信仰していた
  • パシュトゥーン人の見た目は多様性が多く、美形と俳優も多い
  • パシュトゥーン人の文化はインドとイランの影響を感じさせる
  • パシュトゥーン人は女性の人権を軽んじる
  • パシュトゥーン人の歴史は大国との戦いに翻弄される歴史
  • パシュトゥーン人はタリバーンを作った
  • パシュトゥーン人のテロで襲われる人物は多い

歴史が残されていないほどに古い時代から、パシュトゥーン人の土地であるアフガニスタンは大国の勢力に振り回されて来た土地であり、「軍靴の通り道」とまで言われることもあるのです。

パシュトゥーン人の文化や遺伝的な多様性も、その複雑な歴史を反映した結果とも言えます。

またパシュトゥーン人は世界で最も血縁ごとに分かれるグループが多い民族でもあるため、パシュトゥーン人同士でも衝突が絶えないのも現実です。

30年毎に戦う大国がコロコロと変わるようなアフガニスタンに平和が訪れる日は、今のところ遠いのかもしれません。

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