世界にはさまざまな文化を持った民族が存在しているものです。
以前は中国の纏足や辮髪についてご紹介しましたね。
・纏足とは?中国の古い伝統の歴史や、新しい解釈について解説
・辮髪とは?歴史や辮髪令、辮髪のやり方について解説
今回、ご紹介するのは、たくさんの首輪を首にはめた首長族についてになります。
テレビなどで紹介されることも多い民族ですから、一度は耳にしたことや、テレビで見たことがある民族なのではないでしょうか?
特徴的な身体改造を施している首長族の文化とは、一体どのようなものであり、どうして首を長くしているのかについて、ご紹介していきます。
目次
どこに住んでいるの?
タイとミャンマーになります。両者のあいだを行き来する人々も多く、その人口は3万から4万人ぐらいではないかと言われています。
ミャンマーでは迫害されていることもあり、ミャンマー側の首長族の人口統計の数字は、どうにも信用に欠くところがあるのが実情です。
首を長くするのは女性だけ
男は首に首輪をつけません
首長族の男性は首に首輪をつけることはありません。首長族の女性にのみ、首を長く見せるための身体改造の文化が存在しています。
美意識から首を伸ばす?
諸説あることですが、首長族の女性が首を伸ばす理由は、美女の条件だからという説も存在しています。
5才ぐらいの頃から、首に真鍮製の首輪をはめて行き、年齢を重ねるごとに、ちょっとずつ首輪を追加していくのです。
首が長いほうが良い結婚が出来る、美女である、という文化的な認識があるようで、首を長く伸ばそうとしています。
しかし、その由来は虎から首を守るためだとか、虎を沈める儀式のために始まっただとか、さまざまな説があります。
現代でも首を長くしている理由の一つは、観光業に見世物として使うため。という元も子もない動機のヒトもいるようですね。
現実
なんともビジネス・ライクな文化というか、観光用の文化という側面も色濃くなっているようです。
観光もビジネスであり、SNSなどがある昨今では、以前よりも多くの撮影を求められているかもしれません。
彼女たちはよろこんで撮影に応じてくれるようですが、もちろんビジネスなのでチップを支払うことになります。
自分たちの生活風景を、「見世物」にすることに抵抗を持っているかという問いには、ミャンマーで迫害されていた頃よりはマシである、という答えで返す女性もいるようです。
たくましいというか、生活していくことの厳しさを感じさせる言葉ですね。
首長族は文字を持たない部族だった?
文化の多くが口伝である
文字を使う風習が、それほど強く存在しなかったため、そして山岳部族であり、おそらくそれほど人口も多くなかったため、首長族の歴史は詳細には伝わっていません。
生活様式や伝統衣装の色彩などから、カレンニー族という、より大きなカテゴリーに属しているのではないかとい説もあります。
首長族の起源はチベットにあるのではないかともされていますが、文献が残されていないため、それを追跡確認するための根拠が乏しいような状況です。
口頭による伝承や、フォークソングなどから文化的な系譜を類推することしか、今のところ行える研究のしようがありません。
首長族の宗教は、精霊信仰
自然精霊(チュー・カーン・ブェ・チャ)を崇めています。
鶏ガラを使った占いなどを行うのも特徴で、四月の上旬には精霊の最高神ティッを祀るお祭りを開催しているようです。
ですが、迫害を受けているミャンマー側ではミャンマー人に対抗するためにキリスト教を信仰するヒトや、タイ側では仏教を信仰しているヒトもいます。
首長族の立場は、政治的に保証されているようではないようです。
本当に首が長いの?
見かけ上は首が長く見えますが、レントゲン写真(下図参照)などによる撮影で、その認識に若干の誤解があることが分かっています。
首長族の頸椎(首の骨でヒトには七つあります)は、七つ全てにおいて特別な延長が起きてはいないのです。
医学的な答えとしては「首長女性の首は長くはない」ということになります。
首長族のレントゲン写真を見れば、首が長く見える理由がわかる?!
分かりやすく端的に言えば、「肩が下がっている」のです。
肩が首輪の重みで下がっていったために、結果として首が長く見えています。
首を上に伸ばさなくても、「周りが下がれば伸びたように見える」という理屈なのです。
肩甲骨の異常な下への移動、それが「首長」を演出しているわけであり、頸椎が異常な長さを得ているわけではありません。
迷信、首長族は首輪を取ったら死ぬ?
見た目の特異さから、色々な噂が立ちやすくもありそうな首長族ですが、そんな噂のなかには首輪を外すと死ぬ、というものもあります。
そんなバカなと思われる方も多いと思いますが、この噂には変に情報を補強するストーリーがついていました。
長い年月にわたり、首輪によって首を支えているため、首の筋肉が弱くなってしまっているのでは?という理屈です。
実際のところ、首輪を外したところで死ぬことはありません。重量を支えているため、かえって首についている僧帽筋は発達している可能性もあります。
不思議な見かけをしていると、妙な噂を流されてしまうものです。
首長族は減少している
迫害されているミャンマーでの事情はよく分からないところがありますが、タイなどでは首長族の子供たちの多くが学校に通っています。
その結果、首を長くするという彼女たちの文化に対して、若い世代は抵抗を感じるようになって来ているようです。
率直かつ軽率な物言いを許していただけるのなら、そりゃそうかもしれない、という考えが浮かびます。
独自の価値観のなかだけで生きていられた時代と比べると、多くの海外旅行客やテレビやインターネットなどで多くの情報が手に入る時代になりました。
独自の文化を持ち続けることが、困難なものとなって来ています。
美人が多い首長族
首を長く見せるための首輪ですが、じつのところそれ以外の矯正の効果をもたらしている可能性があります。
アゴを上に押し上げる効果は、あの首輪により発生しているのです。
5才という幼く、骨のやわらかい時期からそういう矯正を行えば、アゴが大きくなることを抑制するかもしれません。
アゴの成長が抑制された結果として、丸顔かつ小顔になる可能性があります。
小顔であることを好む美意識は、それなりに多くありますので、彼女たち首長族は美人と映るかもしれません。
しかし、少数民族であり、たんに美人が多い遺伝子が蓄積されているだけの可能性もあります。
首長族が首輪を長期間外したら?
追跡調査が数多く行われているわけではありません。ですが、肩甲骨が押し下げられているだけなので、首の首輪を長期間外しっぱなしにしていると、ゆっくりと肩甲骨が上がって来てしまう可能性が高いようです。
頭部や首からも、肩甲骨を持ち上げるように作用している筋肉はあります。
その筋肉の影響を受けることで、首輪を外した首長族の女性は、その肩甲骨が一般人の高さにまでゆっくりと戻るような力学が作用することになるのです。
数ヶ月や数年すれば、長年首輪をつけて作り上げていた「首長」が消失してしまう可能性があると考えられています。
首輪を着けっぱなしでもかゆくならない?
なります。
どうしたって首輪を着けっぱなしではかゆくなるものです。
そのときは専用の棒を突っ込んで、掻くという方もいます。
しかし、多くの情報が観光地からの発信なので、真実の文化なのか、ビジネス用に「首輪は取らない」という言葉を使っているのかは不明です。
お風呂に入るときには外しているという説もあるので、現代ではそういう方が多いのではないでしょうか。
首長族は謎が多い
露骨な観光資源としての存在として、「首長手当」という金までもらっている土地もあり、どこか観光客に答える文化がデザインされているようにも感じられます。
少数民族だったり、国境を越えて移動することもある部族であったり、文字に書かれた歴史もないため、誰もが首長族の文化を理解しにくいのです。
これからも謎が解明されるよりは、かえって増えていく可能性もあります。
まとめ
- タイとミャンマーに住んでいる。
- じつは、首は伸びていない。
- 首輪を外しても死なない。
- 首輪を外すと「首の長さ」が失われる可能性がある。
- 詳しいことが分からない部族である。
首長族はミャンマーで迫害されてもいるなど、苦労の多い部族のようです。
不思議な伝統と独自の価値観を有する部族ですが、近代化の波にさらされて、それらの特徴が失われたり、観光用に変化している可能性もあります。
伝統の布を縫うのではなく、アルファベットでWELCOMEと描かれたタオルを縫って売っていたりもするのです。
首輪は5キロ以上にもなったりするようなので、それを首にはめての生活は間違いなく負担が多いと思います。
もしかしたら、百年後には、首長族の伝統は見られなくなっているかもしれません。
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