アフリカのエチオピアに約1万人いる少数民族、ムルシ族。
ムルシ族の女性は下唇に入れた大きなお皿が特徴の人々です。
テレビなどでも放送されたことが多いので、知っている方も多いかと思います。
ところで、彼女たちはどうして下唇に大きなお皿を入れるのでしょうか?
それには歴史的な背景や、ムルシ族ならではの文化や価値観などが関係しているようです。
今回は、エチオピアの少数民族、ムルシ族をご紹介していきます。
皿はムルシ族の美意識
美女の証は皿の大きさ?
ムルシ族の少女たちは、15才から16才という結婚が近づいて来た年齢になると、その下唇に皿を入れ始めます。
その皿はカラフルなモノも多く、一種のファッションという価値観をムルシ族の女性の中では獲得しているようです。
下唇に入れた皿が大きなものであるほどに、彼女たちは「価値がある女性」という評価を受けるようにもなります。
日本人の価値観とは、かなり異なっていますね。文化というものの多様性を感じさせてくれる事実の一つだと思います。
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唇にはめる皿の材質は?
この皿は土で作られたいわゆる土器である場合と、木で作られたプレートである場合があります。
カラフルな色彩や絵柄を描きやすい素材ではありますね。
もちろん、衛生的な観念から言えば、当然ながら不衛生なものになってしまいます。
そのため近年ではエチオピア政府の指導のもと、「皿を外して生活してくれ」という健康目的の禁止令も存在しているようです。
ムルシ族の唇の開け方
唇に皿は入れるのは痛いのか?
当然ながら、この作業には痛みをもたらします。
ムルシ族の唇への皿の入れ方
まずは下唇を刃物で切り裂き、そこに小さめの皿から入れていき、徐々にその皿を大きなものにすることで、唇に開けた穴を拡張していくわけです。
皿は穴よりもやや大きなモノを入れることになるため、若い世代の女性であるほどに穴の拡張は途上であり、出血を伴うこともよくあります。
改造するのは唇だけじゃない
皿のフィットを高めるために、下の歯も2本ほど抜歯することになります。並びの良い歯列は、皿を下唇にあけた穴に固定するには不向きです。
皿の固定を良くするために、あえて歯を抜くことで、皿を固定しやすくすることを狙うわけですね。
固定が強いほど、当然ながら穴を拡張するための力もかけやすいものです。
より大きな皿をその穴に迎え入れるため、ムルシ族の若い女性たちは努力を強いられることになります。
ムルシ族の女性が唇に皿をはめる3つの理由
理由① 奴隷商から逃れるために始めた
一つ目の理由は、かつて奴隷商人がアフリカを徘徊し、新大陸用の奴隷としてアフリカの人々を狙っていたという悲惨な時代背景にあります。
奴隷商はより商品価値の高い女性を狙っています。
健康な女性や、美しい姿をした女性は、奴隷としての価値が高くなるわけです。
そのために、ムルシ族の女性たちは、わざと下唇を切り、そこに皿を入れることで美しさを捨てたとされています。
醜くなれば、奴隷商たちから標的にされることはなくなる作戦だったわけです。
歴史や文化とは不思議なもので、醜くなるための方法が、今ではファッションの一つという認識にまで変わっているのですから、驚いてしまいますね。
しかし、全てがこういった時代背景による理由から来ているというわけではないようです。
理由② 悪霊が口から入って来ることを防ぐ
ムルシ族の伝統というか宗教観によれば、この皿の存在が口から災いや病気を体内に持ち込む邪悪な存在、いわゆる悪霊や悪魔といった存在を防いでくれているという考えもあります。
ムルシ族の女性たちの皿は、つまりは魔除けの一種でもあるようです。
おそらく、魔除けの対象である「魔」については、他の部族の男たちも含まれている可能性もあります。
人体改造を施す民族は、自分たちの改造を尊いと感じる一方で、自分たちと異なる部位の改造を施した集団に対しては低い価値を見ることが多いのです。
そうすることで、他の民族から女性が略奪されることを防ぐという効果もあります。
自分たちだけが価値を感じればいいわけで、他から見れば価値が低くても問題はないわけですから。
理由③ 女性を高く売るため
ムルシ族の男からすれば、自分の娘は財産の一つという側面があります。原始的な世界観を継承していますので、そういう価値観だってあるわけです。
自分の娘は、老いた男にとっては、いわば老後の年金のような存在とも言えます。
誰かに嫁がせる時に、対価として多くの家畜と交換するために、「より価値の高い女」とするべく、大きな皿を入れさせる文化が補強されてもいるわけです。
女性の主観やファッション性という側面も獲得してはいるようですが、父親が得するためである、という事実もあります。
非道な行いにも思えますが、より金持ちに嫁がせた方が娘にとっても幸せであろうという考え方もあるわけですから、父親にも娘にも一定のメリットはあるわけですね。
ムルシ族の男性の価値は何で決まるの?
血なまぐさい評価方法
強い男が評価されています。
棒で叩き合う試合のようなものでの勝者も評価を受けますし、もっと端的に言えば敵対する部族の男をより多く殺した男が評価されるわけです。
ムルシ族の男の腕に刻まれた傷痕は、彼がどれだけの敵を倒したかを示しています。
ムルシ族の使用する武器
原始的な生活様式と文化を持っているムルシ族です。
戦士たちはカラフルな化粧や大きな装身具を身につけています。
しかし、彼らが好む武器は槍や弓などではなく、アサルトライフルです。
武器まで近代化しているようで、紛争の多いアフリカという土地柄を反映している現実かもしれませんね。
失われつつある文化
やっぱり金は強い
この地球上に他の地域の文化や価値観の流入を防げる地域は、事実上、ほとんど存在してはいません。
まして国連に加盟したり、観光客誘致で金を稼いだりしていれば、他の価値観を持った人々との接触も増えていきます。
ムルシ族もその例外には漏れず、かつてよりも強欲になり、ムルシ族の少女たちは観光客に自分を撮影させてチップを稼ぐようになりました。
アサルトライフルを構えた男が、たとえその小銃に弾倉を入れてなかったとしても、少女たちのそばにいるのであれば、チップを少なく済ます気にはならないかもしれません。
皿を唇に入れなくなった少女たち
エチオピア政府の働きかけもあり、皿を下唇に入れるムルシ族の少女たちは減りつつあります。
感染症により健康を損なう恐れがあると言われれば、その行いに大きな価値観を抱きにくくなるのは当然かもしれません。
死が身近な世界においては、迷信が健康を支える手段にさえなっている場合もあります。しかし、啓蒙活動が進めば、こういった文化には減少していく力がかかるようになるわけです。
魔除けのせいで、かえって病気になるのだということを理解すれば、その魔除けのことを捨て始めてもおかしくはありません。
雇用政策などによって、かつての生活様式に囚われる必要もなく、かえって豊かな生活を送れるようにもなってくれば価値観も変わってしまいますよね。
アフリカのユニークな文化は、ゆっくりと失われつつあるようです。
それは残念であるような気もする一方で、新たな生活のスタイルは、かつてより過酷なものではないかもしれないと思うと、それも悪くないのではないかと考えてしまいます。
まとめ
- 唇に皿を入れると当然ながら痛い。
- 唇に穴を開けるだけじゃなく、歯も抜いている。
- 皿を入れる理由にはかつての奴隷対策、悪霊対策、金などがある。
- 皿を入れないムルシ族の少女たちも増えている。
十数年後には、唇に皿を入れているムルシ族の少女たちも、いなくなっているのかもしれません。
文化の伝搬は、小規模な部族では早いものでしょうし、エチオピア政府の努力も有効に作用し始めているようです。
もしも、お皿を下唇に入れたムルシ族の少女に出会いたい場合は、早めのアフリカ旅行が要るのかもしれません。
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