皆さんはインド人と聞けば、どんな人たちを思い浮かべるでしょうか?
ターバンを巻いた人たちでしょうか?
しかし、ターバンを巻いた人たちは実はシク教の信者で、インド人のうち1.9%しかいない少数派なんです。
今回は、そのシク教についてご紹介いたします。
シク教徒の服装の特徴
ターバンを巻いているインド人
インドで連想するものはカレーやガンジス川、そして人口が多いことなどかもしれません。
では、インド人男性で想像するイメージはどういうものでしょうか?
カラフルな「ターバン」を頭に巻いた男性をイメージした方も多いと思います。
じつは、そのイメージこそがシク教徒の典型的な姿なのです。
シク教徒はインドでは少数派なのですが、インド人を代表するイメージとして我々の記憶に残っています。
なお、インドの宗教はヒンドゥー教徒が最も多く80.5%を占め、次いでイスラム教の13.4%が二番目となります。
三番目はキリスト教徒の2.3%になりますが、四番目はシク教徒の1.9%で、パンジャブ地方に大半が集中して居住されているのです。
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短剣キルパンを所持している
シク教徒は人種や身分、信条にかかわらず、抑圧・迫害を受けている全ての人々の権利を擁護する勇気を持つことを尊ばれています。
キルパンは、「慈悲」と「尊厳」という二つの言葉をつなげたものであり、短剣キルパンはシク教徒の勇気の方針を象徴するものであるわけです。
2019年5月に、イギリス政府はキルパンの携帯を許可する法律を作っています。
ターバンを巻き腰に短剣を差した姿こそが、シク教徒らしい姿というわけですね。
シク教徒=ターバン
シク教徒には国際的に活躍する人物が多い
シク教はインドでも1.9%の人口にしか信仰されてはいませんが、富裕層に信者が多いという特徴もあります。
その結果、地位の高い役職にもシク教徒たちがつくこととなり、国際的に活躍する人物が昔から多かったのです。
外交官や特使や大使に任命されることで、インドの外交的な顔としてシク教徒の姿が知れ渡っていき、いつしか日本から見たインド人の典型的な姿として認識されるようになりました。
映画などの創作物の登場人物や、CMなどで使う場合もターバンを巻いていることでキャラクターが立っていたという事実も印象づけには有利だったかもしれません。
かつて日本で活躍したプロレスラー、タイガー・ジェット・シンなどもターバンを頭に巻いたシク教徒なのです。
シク教徒がターバンを巻く意味
宗教には色々な戒律や決まりがあったりするものですが、シク教徒のターバンもまた宗教的な由来を持っています。
シク教には散髪を推奨しない考え方があり、基本的に髪は伸ばしっぱなしです。
あまりにも長くなっていく髪を包むために、ターバンが採用されました。
宗教的なルールですので、インドと長く関わりを持つイギリスなどでは、ターバンを巻いたシク教徒にはバイクをヘルメット無しで乗ってもいい法律があったりします。
ちなみに散髪だけでなく、あらゆる体毛を除去することを嫌っているため、ヒゲや眉毛なども伸ばし放題になっていたりもするわけです。
シク教における女性
男女平等の精神がある
インドの宗教では珍しいことに、シク教には男女平等の考えがあります。
シク教においては、家庭は救済を受けられる特別な場所とされており、その場所を支配する女性には「平和の護持者」という地位が与えられているのです。
尊厳のために行動する
シク教徒の女性には、女性の尊厳のために意志を持ち行動することが期待されています。
買春や虐待、女性を殺すようなことをする連中と交わるなかれとされているのです。
ちなみに、男性同様に髪を切ることはタブーであり、長く伸ばしています。
シク教の考え方
他宗教に寛容である
開祖グル・ナーナクにより開かれたシク教には、ユニークな考えが存在します。
神や信仰は多くあれど、神の本質はどれも同じであるという寛容な精神があります。
そのため、基本的に自分たち以外の宗教に対しても受け入れてくれるのです。
カースト制の完全否定
インドにある身分制度、カースト制をシク教は悪しきものとして否定しています。
カースト制では、カーストの異なる者と同じテーブルで食事を取ることはありません。
しかし、シク教においては礼拝の後に食事が無料で振る舞われることが慣わしとなっています。
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グル(尊師)の教えを実践しなければならない
シク教徒は宗教指導者であるグルを尊び、グルの教えを守らなければなりません。
そして、聖なる教えを信じるだけではなく、それを実践しなければ真の信仰だとは認められません。
聖典を歌う
シク教徒の礼拝では神をたたえる賛歌によって信仰の祈りとします。
シク教の聖典の多くは、音楽に合わせて歌えるように作られているのです。
最終目標は神との合一
シク教徒は輪廻転生の果てに、神と合一するムクティという状態を目指しています。
他者への奉仕、グルの教えの遵守などにより、その状態へと至れるかどうかが決定されると言われています。
シク教徒の有名人
政財界の重鎮たち
シク教徒には裕福かつ教育水準の高い人々が多いため、様々な分野で活躍しています。
- インドの元首相 マンモハン・シン
- マスターカードのCEO エージェイパール・シン・バンガ
- カナダ国防大臣 ハルジット・シン・サージャン
シンという名字やミドルネームが多いのは、シク教徒の男性はシン(ライオンの意味)を名字とするかミドルネームにするという伝統からです。
ちなみに女性の場合は、カウル(王女の意味)を名前につけることになっています。
これらも名字を一つにすることで、カーストの身分を隠せるからであり、カースト制に対する徹底的な否定の現れでもあるのです。
その他シク教徒の有名人たち
- プロレスラー タイガー・ジェット・シン
- イギリスの女優 パーミンダ・ナーグラ
- 歌手 ダレル・メヘンディ
シク教の歴史
シク教の開祖、グル・ナーナク
シク教の始まりは15世紀、パンジャブ地方北部でグル・ナーナクという人物により誕生しました。
そして、代々の宗教指導者たちにより17世紀にその慣行や政治的な方針が固まります。
ムガール帝国による迫害
17世紀、宗教としての完成をみたシク教でしたが、ムガール帝国により政治的な脅威と見做されることになり弾圧されました。
それに対抗するために武装する者たちも出て来ます。
カルサの設立
1699年、当時のシク教の指導者グル・ゴビンド・シンは、あらゆる種類の宗教弾圧から罪のない人々を守る義務を持った戦士集団として、カルサを設立しました。
他国にまで遠征したり、砦を守ったりすることもあるほどの戦力を有していて、事実上、シク教徒の軍隊です。
シク帝国の建設
1799年から1849年まで、シク帝国は存在していました。
シク帝国の特異な点は、シク教徒が作った国でありながらも、重要ポストにシク教徒以外の宗教の者を登用したことがあげられます。
シク教の宗教的な寛容性が表れているようです。
イギリスに統治される
1849年、イギリスの東インド会社とシク帝国のあいだに起きていたアングロシーク戦争が終結、敗北したシク帝国は崩壊し、イギリスに植民地として併合されることになります。
イギリス軍に協力
パンジャブ地方のシク教徒は、イギリスに対して忠実であり、植民地軍の主要な兵力の一つとして採用されることになります。
第一次および第二次世界大戦においても、計10万人を超えるシク教徒の兵士がイギリス軍に協力しました。
シク教徒はカナダなど世界中にいる
シク帝国の崩壊や、イギリスによる植民地支配の結果、シク教徒は、イギリスや北米、極東、東アフリカなど、世界中に散らばることになります。
中でもカナダなどには多くシク教徒たちが移住しており、現在でもシク教徒のカナダの国会議員が多く存在しているのです。
シク教徒の軽歩兵連隊
現在のインド陸軍には、いくつかの民族集団的な連隊が存在していますが、シーク教徒軽歩兵連隊もその一つです。
パンジャブ地方出身者のシク教徒たちは、軍人になる者も比較的多くいます。
インド軍の将校の20%がシク教徒であるという報告も存在しているのです。
日本のシク教
日本のシク教の施設は二つある
東京都文京区と兵庫県神戸市にあります。
シク教徒は異教徒でも礼拝時には食事を無料でふるまってくれる教えがあります。
足を運べばインド料理を食べさせてもらえるのかもしれませんが、礼拝時間でなければ食事にはありつけないのかもしれません。
まとめ
- シク教徒はインドでは1.9%の少数派
- 開祖はグル・ナーナク
- ターバンは髪をまとめるために巻いている
- 実践的な宗教である
- 富裕層が多く、教育水準が高い
- カースト制を徹底的に否定し、男女平等
シク教はイスラム教風のヒンドゥー教、あるいはヒンドゥー教風のイスラム教といった形の宗教です。
世界観はヒンドゥー教的ですが、信仰の方針はイスラム教的にも思えます。
両者を混ぜた存在といった宗教で、とにかく合理的かつ実践的であり寛大なところが魅力ですね。
平等の精神があることや、他宗教の許容、職業選択の自由など、近代的な価値観を多く持っていることも、シク教の特徴かもしれません。
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