ユダヤ教やキリスト教には数々の「天使」がいます。
彼らは神の優秀な部下として人間を守護したり、ときに罰を与えることもあるような神秘的な存在です。
多くの天使がいますが、その中でも最も有名な天使の一人が「大天使ガブリエル」になります。
ユダヤ教やキリスト教のみならず、イスラム教においても活躍する天使がこのガブリエルなのです。
今回は最も有名な天使の一人、大天使ガブリエルについてご紹介していきます。
目次
ガブリエルの持つ役割
ガブリエルの名前
「ガブリエル」という名前のヘブライ語の意味は「神の人」であり、意訳の一つには「神は私の力だ」があります。
神さまに最も近しいという立場の天使であり、大天使ガブリエルは最高位の天使の一人と考えられているのです。
またガブリエルに限らず、天使の名前で語尾に「エル」がついているものは、元々はユダヤ教やキリスト教以外の別の宗教の神々や、ときには悪魔が起源になります。
ユダヤ教が成立していく過程において、元々あったより古い宗教の神々や、他地域の神々を天使として組み込んでいったわけです。
天使の思想がユダヤ教に登場したのは紀元前6世紀、「バビロン捕囚」の時代においてと考えられています。
バビロン捕囚は新バビロニアの王がユダヤ人をバビロニア地方に捕虜として強制移住させた時期であり、ユダヤ教の宗教改革を促すイベントとしても機能したのです。
バビロニアは「メソポタミア文明」や、その継承者である「古代都市シュメール」の系譜につらなる地域になります。
大天使ガブリエルもメソポタミア地域(カルデア地域とも呼ばれます)の神であったともされ、シュメール人たちの神の一人であったという説も持っているのです。
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ガブリエルの地位
大天使ガブリエルはユダヤ教では「四大天使」の一人であり、キリスト教では「三大天使」の一人になります。
四大天使の内訳は、ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルです。
キリスト教でウリエルが排除されているのは、かつて天使信仰があまりにも高まりすぎたためにウリエルを排除したからになります。
四大天使たちは重要な役割を司っていることや、宗教芸術などで描かれることが多かったため特別に人気の高い天使だったのです。
ガブリエルは神の御前に立つことを許された、最も偉大な天使の一人になります。
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ガブリエルの旧約聖書における役割:預言を人々に与える
大天使ガブリエルが果たした役割は、神の言葉や計画を地上の「選ばれた人々=預言者たち」に伝えるという「メッセンジャー」です。
ガブリエルは「バビロン捕囚」の時代に預言者ダニエルの前に現れました。
ガブリエルはダニエルが見た夢や幻について解説し、救世主に関するお告げや、やがてユダヤ人が解放されることや、ユダヤ教の神殿であるエルサレム神殿が再建されることを神から伝えられた「預言」であることを理解させます。
なお、「預言」とは神さまの言葉を「預けられた」ということであり、未来を予想する「予言」とは大きく意味が異なるので注意が必要です。
また大天使ガブリエルは預言者モーゼとも関わりがあります。
預言者モーゼは神さまの命令で民衆を率いて約束の地を目指しましたが、その一歩手前で亡くなったのです。
モーゼが死ぬときにはガブリエルが現れて、モーゼの死をねぎらっています。
なお預言者モーゼはこの死ぬ間際に、重要な知識を十三巻の書物にまとめあげることになったのです。
神さまに寿命が一日しかないと伝えられたとき大量の執筆を最後の一日のあいだに行いますが、このときに執筆を守護したのがガブリエルになります。
ガブリエルはこのとき書かれた文書を天界の裁判所に運ぶ仕事も果たしたのです。
なお旧約聖書におけるガブリエルは「神の敵対者を攻撃する役目」も持っています。
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ガブリエルの新約聖書の役割:受胎告知
キリスト教の聖典である新約聖書において、大天使ガブリエルのもっとも有名な仕事は「受胎告知(じゅたいこくち)」です。
マリアのもとに現れたガブリエルは、彼女が救世主であるイエス・キリストを妊娠したと告げます。
またイエス・キリストに洗礼を与えた預言者であり宗教改革者である「洗礼者ヨハネ」の誕生についてもガブリエルが関わっているのです。
ガブリエルは高齢であった司祭の夫婦のもとに現れて、彼らのあいだにヨハネが生まれることと、ヨハネの人生について預言を与えています。
ヨハネはユダヤ教の宗教改革を始めて、その宗教改革はイエス・キリストがキリスト教を作る流れへとつながるのです。
ガブリエルはイエス・キリストと洗礼者ヨハネという、キリスト教の始まりに関わる重要な人物たちの生誕を告げた天使になります。
キリスト教においてはガブリエルは「メッセンジャー」であると共に、世界が終わる日である「最後の審判」で死者を蘇らせるためにラッパ(もしくは角笛)を吹く天使です。
旧約聖書=ユダヤ教に比べるとガブリエルを含み天使たちが持っていた攻撃性が低くなっているのも、キリスト教=新約聖書の特徴になります。
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大天使ガブリエルと大天使ジブリール
イスラム教におけるガブリエル=ジブリール
大天使ガブリエルはユダヤ教とキリスト教の天使ですが、それらの宗教の後続として作られたイスラム教においても登場します。
イスラム教においてガブリエルの呼び方は、「ジブリール」と変わるのです。
ジブリールとは大天使ガブリエルの「アラビア語での呼び名」になります。
つまりガブリエルもジブリールも「同一の天使」を示す名前です。
イスラム教におけるガブリエル=ジブリールの役割:コーランの口述
イスラム教においてもガブリエル=ジブリールは重要な役割を果たすことになります。
ジブリールは610年ごろにメッカの洞窟で瞑想をしていたムハンマドの前に現れました。
ジブリールはムハンマドに対して、イスラム教の経典である「コーラン」を啓示していきます。
ジブリールは預言者ムハンマドに神さまの教えである「コーラン」を言葉で伝えることで、ムハンマドに「イスラム教」を作らせていったのです。
大天使ガブリエル=ジブリールはイスラム教の誕生に密接に関わった天使になります。
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イスラム教でのガブリエル=ジブリールの活躍
コーランをムハンマドに伝える以外にも、ジブリールはイスラム教において活躍しています。
624年に勃発したムハンマド率いるイスラム教徒の軍と、それに反対する軍勢が衝突した「バドルの戦い」において、ジブリールがイスラム教徒側に加担したという伝承もあるのです。
ジブリールの加護もあり、圧倒的に不利なはずであった戦いをムハンマドたちは勝利したのだとも言われています。
ほかにも敵対するユダヤ人部族をジブリールが攻撃したとも伝わるのです。
また「全てのアラビア人の先祖」と伝えられる「イシュマエル」とその母親が砂漠に追放されたときにもジブリールが現れています。
このとき、二人のために決して枯れることのない井戸を与えて砂漠で苦しんでいた母子二人を救ったのです。
イスラム教において、ジブリールはアラビア人の先祖を救ってくれた天使であり、イスラム教の誕生にも関わった天使であるため、ジブリールは非常に重要視されている天使となります。
なおキリスト教とは異なり、ジブリールは「神の敵対者を攻撃する役目」を持たされているのも特徴です。
ユダヤ教とイスラム教の天使の特徴は、積極的に敵を排除することになります。
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大天使ガブリエルの見た目
ガブリエルのキリスト教での姿
ガブリエルは「受胎告知」を行いイエス・キリストの生誕にも関わったことから、古くからキリスト教の宗教絵画において多く描かれてきた天使になります。
「受胎告知」におけるガブリエルは「女性的な姿」として描かれることも多くあるのです。
「受胎告知」の絵画は12世紀までは糸を紡いでいた聖母マリアの前にガブリエルが現れるという構図が多くありますが、14世紀以降はマリアが読書しているときに姿を現す構図が好まれるようになります。
時代に応じて構図が変わるだけでなく、古い宗教絵画では「受胎告知」に現れたガブリエルが持っているものは「オリーブの杖」でしたが、やがて「百合(ゆり)」を持って現れる姿が増えていったのです。
百合はマリアの純潔性を示すものであり、時代が経つにつれて「聖母マリアへの人気が高まっていた」ことを示す構図の変化でもあります。
西欧での近代以前の絵画とは、ほぼほぼキリスト教の宗教絵画のことであり、ラテン語で書かれていたため読むことの難しかった聖書を「絵画」にして伝えるための「宣伝用の道具」です。
宗教絵画における扱い方の違いは、当時の信仰のトレンドを反映されるものとも言え、聖母マリアの扱いが良くなることは、聖母マリアの信仰が力をつけていったことの証になります。
ガブリエルはキリスト教では権威ある男性の姿を持つこともあれば、女性的な「妊婦の守護者」としての姿も持っているのです。
イスラム教で描かれるジブリールの姿
偶像崇拝を禁止するイスラム教ではガブリエル=ジブリールの姿を描く美術が発展することはありませんでしたが(一部宗教絵画は存在します)、言い伝えのなかでジブリールの姿は伝えられています。
ジブリールは1600枚の翼と濃い黄色の髪をしており、両目のあいだには太陽が埋め込められているのです。
ジブリールの翼からはそれぞれ神(アッラー)を讃えるための天使が、光のしずくとして生まれてきます。
またコーランを伝えにムハンマドの前に現れたジブリールはとても巨大であり、その翼の両端が東西の地平線と同じぐらいに伸びていたのです。
イスラム教でのジブリールの扱いは極めて良いことになります。
またジブリールの特徴としては、「戦士」としての仕事も多く与えられていることです。
キリスト教においては悪魔や宗教上の敵対勢力と戦うことは、大天使ミカエルが多いのですが、ジブリールはそのミカエルが行う戦士としての仕事も奪っています。
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ガブリエルを象徴するアイテムと守護対象
大天使ガブリエルを象徴するアイテムには、「百合の花」、「トランペット(最後の審判の時に使われる)」、「オリーブの杖(天使一般の知性などを現す)」、「巻物」、「青い服装」です。
ユダヤ神話(ユダヤ教の元ともなるユダヤ人に古くからある伝統文化)によれば、ガブリエルはエデンの園の管理人であり、そこにある全ての魂の元がなるという「生命の木」の守護者でもあります。
生まれる前の魂はガブリエルに管理され、母体にいるあいだはガブリエルが見守るとされているのです。
ガブリエルは「妊婦の守護者」、「メッセンジャーの守護者」、「郵便局員の守護者」、「外交官の守護者」など様々な加護を人類に与えてくれる大天使になります。
また珍しいところでは「切手の守護者」という顔も持っているのです。
誰かに「知らせ」を運ぶこと全般の守護者が、大天使ガブリエルになります。
まとめ
- 大天使ガブリエルは四大天使(キリスト教では三大天使)の一人
- ガブリエルの役目は「メッセンジャー」
- ガブリエルはメソポタミア・シュメール人の神
- ガブリエルはモーゼの守護者
- ガブリエルは聖母マリアへの受胎告知で有名
- ガブリエルはイスラム教では「ジブリール」と呼ばれる
- ジブリールはコーランをムハンマドに伝えた
- ユダヤ教とイスラム教の天使は攻撃的
- ガブリエルは宗教改革に関わることが多い
- ガブリエルは「エデンの園」と「生命の木」の管理者であり守護者
- ガブリエルは人気が高い
大天使ガブリエルはユダヤ教、キリスト教、イスラム教やそれにまつわる宗教などで尊敬を集めている天使です。
その起源は古く、メソポタミアの神々とも関わっている可能性があります。
ガブリエルはユダヤ教の事実上の完成や、キリスト教とイスラム教の生誕にも関わってくる重要な天使なのです。
神の言葉や計画を伝える役目を持っているポジションゆえのこととはいえ、異教の神であったとされる天使が古代から大きな宗教の生誕に関わっているのは興味深い事実になります。
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